いつもより少ない洗濯物を干していると、電話が鳴った。携帯ではなく、部室にある内線だ。え、これってうちが出てもいいのかな?いいよね?理紗子にちらちらと目配せをすると、理紗子はうーんと首を傾げている。え、だめかなぁ?うち、内線にとっても出てみたいんだけど。……いーや出ちゃえ!相手を待たせるのも悪いし、何かあったら跡部を呼べばいい。内線だから相手は先生か事務員だろうから、粗相をしたところで、そう咎められもしないだろう。受話器を取って、もしもしと相手に呼び掛ける。相手は案の定事務員で、立海大附属中学から電話がきているので今すぐ事務室に来てほしい、ということだった。

「理紗子、事務室行ってくる!」
「へ……う、うん、わかった!」

ぽかんとしている可愛い理紗子を部室に残して事務室へ向かって走る。テニスコートから校舎までは意外と距離があって、運動神経がよろしくないうちにとってはわりときついけど、急がないと相手に悪い。雨降りの中差している傘が邪魔になるくらい走り、息を切らせて事務室に辿り着き、なんとか呼吸を整えて受話器を受け取った。

「お電話替わりました。ご用件を承ります」

前の世界では就活をしていたから、ある程度の対応は出来るし、言葉遣いもそれなりなはず。ドキドキしながら受話器に耳を当てていると、聞こえてきたのは男の子の声だった。

「……ああ、すまない。練習試合の件だが、こちらで調整をしてからそちらに向かいたい。30分ほど時間を繰り下げてもらっても構わないだろうか?」
「ええっと、恐らく大丈夫かと。都合が合わない場合はこちらから再度連絡いたします」

しまった。慌てて出て来ちゃったけど、跡部を呼んだ方が良かったかも。まぁ、時すでに遅し。しょーがないさ、怒られるのは嫌だけどね。

「ところで、君は?」
「……あ、自己紹介してなかったですね。すみません。今月からマネージャーをさせてもらってます、3年の宮永夏華です。よろしくお願いします」
「いや、こちらこそ名乗りもせずに申し訳なかった。立海大附属中学テニス部3年の柳蓮二だ。よろしく」

立海の柳蓮二。よし、覚えた、はず。明日になったら忘れてたりして。……ありそうで怖いなぁ、やだやだ。電話口で面白いだのデータだのよく分からない言葉が聞こえたけど、スルーさせてもらおう。嫌な予感がする。なんとなくだけどさ。

「部活動中に時間を割いてしまってすまなかったな」
「いえ。また何かありましたらいつでもどうぞ」
「ああ。それでは、また日曜日に」
「はい、お待ちしております」

かちゃん、受話器を置いて息を吐く。ああ、緊張した!慣れないことはするものじゃないよね!事務員さんにお礼を言って、部室に戻る。気付けば雨は止んでいた。よかった、よかった。傘が荷物になっちゃったのは、仕方ない。そろそろありすたちも帰ってくるかなぁ。がちゃりと扉を開けると、そこには皆がいた。買い物から帰ってきたありすたちと、トレーニングを終えた岳人たち。

「おかえりー! あーんどお疲れさまー!」
「夏華ちゃんも、おかえりなさい」
「夏華どこ行ってたんだよ?」
「事務室だぜっ! あ、そうだ、跡部跡部、立海から電話があってね、30分遅れるって!」
「アーン? どうして俺様に連絡しなかった?」

げぇ、やっぱ怒られるのかよぅ。さいあくー!別に悪いことしたわけじゃないのにさぁ!言い返そうと開いた口を、ジローの言葉が遮る。

「あー! 桜ちゃんが良いもの持ってるC!」
「うん。みんな頑張ってたから、差し入れ」
「ミスド! 桜ってば神! 3人ともありがとー!」

がばっと抱きつくと、祐美は若干嫌そうな顔をした。良いじゃんかよ、スキンシップだよ。桜は持っていた袋を机の上において、箱を取り出し広げた。ドーナツは多分お店に売ってる全種類が入っていると思う。うちの大好きなエンゼルクリームももちろん入っていた。やった!

「うちのエンゼルクリーム!」
「俺、ポンデリング!」
「はいはい、順番ねー。あ、エビグラタンパイはあたしのだから」
「ありすずるい!」
「ていうか、チョイスがマイナーすぎんだろ……」
「なーに、宍戸くん。喧嘩なら買うよー?」
「いや、なんでもねぇ……!」

ありすの黒い笑顔にやられてる宍戸ってばダッセーの!いや、うちもありすには勝てないけどね。残念ながら。勝ち取ったエンゼルクリームにかぶりつき、その甘さを堪能する。理紗子もお目当てのハニーディップが食べれて満足なようだ。よかった、よかった。
ところで、ミスドが初めてな跡部って、どんなセレブなわけ?


(みんなでわいわい美味しいものを食べて)
(めいっぱい今日を楽しんだら)
(それが明日の力になるから)



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