「苦しい……」
「桜がでかいのがいけないと思う!」
「いや、普通だよ……標準だよ……!」
「うちらが小さいと、桜はそう申すのか!」
「いや、それは、ううん……ていうか、夏華ちゃん口調変だよ」
「うるさいうるさいうるさーい! そんな目でうちを見るなぁっ!」

着替え終えた桜ちゃんと祐美ちゃん、そしてその手伝いをしていた夏華ちゃんが更衣室から出てきた。2人は思いの外、びっくりするくらい男の子になっていた。ほんとびっくり。ありすちゃんもそれは同じようで、目をぱちくりさせていた。そんな最中に桜ちゃんと夏華ちゃんは何やら口論を繰り広げていて、その内容はなんとなくだけど分かった。

「桜、サラシ巻いてるの?」
「うん……なんかもう、息苦しい」

桜ちゃんは着痩せするからあまり目立たないけれど、それなりに胸は大きい。ありすちゃんもなんだかんだでスタイル良いしなぁ……。自分を見てて悲しくなってきた……どうせ、ぺたんこですよ。

「あ、桜はありすちゃんの彼氏設定だから」
「え、なんで? ねぇ、祐美ちゃんなんで?」
「ちなみにウチはありすちゃんの弟設定」
「私の質問スルー……!」

桜ちゃんと祐美ちゃんがそんなやりとりを繰り広げている間にありすちゃんはもう準備をし終えていて、早く行くよーと2人を置いて部室を出ていってしまった。その後を2人が追いかけていって、部室はあっという間に静かになる。

「理紗子! 仕事しよ!」
「あっ、うん……!」

にかっと笑う夏華ちゃんのあとに続いて、洗濯機の前へやってきた。いつもより幾分か少ないタオルを洗濯機へ放り込む。洗剤を取ろうとした途端、夏華ちゃんが笑いだした。どうしたの、と聞いても、彼女はただ棚にある何かを指差して笑い続けるだけだった。何があるんだろう?わたしも好奇心でその先を目で辿ってみる。

「部屋干し、トップ……?」
「生乾きでも臭わない!」

けたけたと笑い転がる夏華ちゃん、そしてわたし。お金持ちが集うらしいここ、私立の名門校氷帝学園。その中でもひときわ目立ち、豪勢な部室を構える男子テニス部に部屋干しトップがあるなど誰が考えようか。夏華ちゃんは迷わずそれに手を伸ばし、中の洗剤を洗濯機へ円を描くように入れた。わたしはその隣でボタン操作を行い、洗濯機はその命令にしたがって稼働しはじめた。

「あー笑った! あとでありすたちにも教えてあげよう」
「うん、そうだね」
「理紗子、ドリンクつくろ!」
「うんっ」

ぱたぱたと走り回っていた夏華ちゃんが不意に足を止めた。どんよりとした空、降りしきる雨をじっと見つめるその姿はとても寂しげだ。不安そうに揺れる瞳は、やっと窓の外の風景から視線を外し、彼女はいつものように、わたしに太陽のような明るい笑みを浮かべた。

「ありすたち、何かお土産買ってきてくれないかなぁ?」
「どうだろう……?」
「うち、ミスドのエンゼルクリームが食べたい! 理紗子はっ?」
「ハニーディップ、かなぁ……帰りに寄ってく?」
「ううん、みんなが買ってきてくれるのを期待する」
「……それは、無理なんじゃないかな」
「そんなことないよ! 届け、うちの想い!」

両手をかざして念を送る動作をする夏華ちゃんに自然と頬が綻んだ。ドリンク作ろう?と言うと、夏華ちゃんはぱっと笑い、元気な返事をくれた。はやく、ありすちゃんたちが帰ってきますように。念が届いているなら、どうかドーナツも買ってきてくれますように。そうしたら、不安そうに雨を見つめる彼女は、きっと無理矢理なんかじゃない本当に素敵な笑顔を見せてくれるだろうから。









 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -