「あ、祐美はっけーん」
彼女独特の少し間延びした可愛らしい声。その声に振り向くと、そこには紙コップをもったありすちゃんがいた。
「おつかれー」
「お疲れ。どうかした?」
「祐美球拾いおつかれってことでドリンク持ってきたー」
紙コップでごめんねーと手渡されたそれを受け取る。適度に冷えたドリンクを飲んで喉を潤す。
「美味しー?」
「うん」
「良かったーさっき桜に持ってったら、ちょっと濃いって言われたんだー」
「桜薄味派だから」
「だよねー。健康的な老後を過ごせそう」
ありすちゃんはそう言って笑うと、夏華ちゃんに呼ばれて戻っていった。紙コップは掌の温度で大分温くなっていた。さっき全部飲めばよかった。さっさと飲んで今のうちにコート内の球を拾っておこう。そう、思った、のに。
「お疲れさん」
「……そっちこそ」
忍足侑士が、いた。コイツは苦手だ。嫌いとかじゃなくて、苦手。いや、ありすちゃん達以外、大体苦手だけれど。
「江藤さん相変わらずやな」
「は?」
「愛想ないとこ」
……心底、どうでもいいのだけれど。早く仕事を片づけてしまいたい。そう思って彼を無視して歩き出す。後を追う足音がないことに安堵しながら。忍足侑士は苦手だ。自分に似た何かを感じるから。心を、閉ざすから。紙コップを傾けて残りのドリンクを喉に流し込む。温くなったそれは、ひどく喉を渇かせた。
***
「つっかれたー!」
「本当……文化部しかやってこなかったこと後悔したよ」
帰り道、すっかり疲れ切ってしまった体に鞭を打って家へと向かう。学校から家までは歩いて20分程度。そこまで遠くないことが救いだ。夜ごはん作る元気ないなーと呟いたありすちゃんに皆で頷く。
「どーする? マック行くー?」
「夜にジャンクフード無理無理却下!」
「でも、コンビニって高い、よね……どうする?」
「……サイゼとか?」
「あ、経済的」
祐美ちゃんの出した案に真っ先に賛同したのが桜ちゃんだった。それに続いてありすちゃんも夏華ちゃんも賛同する。もちろん、わたしが否定する理由もないので夕飯はサイゼリヤに落ち着いた。うちドリア食べたい!と夏華ちゃんは嬉しそうに言う。
「……あれ、この辺ってサイゼリヤあるの?」
ぽつり、桜ちゃんがもらした一言に固まる。そういえば、わたしたちってあんまりこの辺のこと知らないんだ。沈黙がその場を支配して、そしてパニック。えええどうしよう!?みんなで騒いでいると、ありすちゃんが携帯を桜ちゃんに差し出した。
「地図アプリで検索してみたー。桜、道案内して?」
ぽかん。みんなそんな感じだったけれど、やがてハッとする。ありすちゃんすごい!とみんなで称賛する。そして、わたしたちは美味しい晩御飯にありついた。良かった。
そうして、明日からも忙しなく変わらない日常が、続く。
(こんな私達ですがどうぞよろしく)
(そして、君達のことをよろしくされます)
(なんて、ね!)
←|→