コート中に散らばる黄色いテニスボール。それらを見つめてため息をひとつ。マネージャーの仕事は理解していたつもりだけど、これは予想以上に骨が折れそうだ。籠を近くに置いてその場にしゃがみ、手近なところからボールを拾っていく。私と反対の位置では祐美ちゃんがラケットを使ってボールをコートに打ち返していた。そういえば、祐美ちゃんは元テニス部なんだよね。家に帰ったらスコアの付け方とか教えてもらおう。嫌そうな顔して祐美ちゃんは教えてくれるに違いない。そんなことを考えながら着々と籠にボールを入れていく。瞬間、ひゅん、と何かが私の横を通って行った。頬に掠るか掠らないかくらいの位置。ぽかん、と固まっていると、バタバタと慌てたような足音が聞こえてきた。

「すいません! 大丈夫ですか!?」
「え、あ、うん、平気……」

必死に謝ってくる部員、確か『鳳長太郎』くん。尻もちをついたままの私に怪我はないかと尋ねる様子がなんだか可愛い。そうは思うけれど、予想外のことに驚いたのか私の体は起き上がれない。

「妹尾、平気か? 長太郎が悪かったな」
「ううん、そんなことないよ。私もぼーっとしてたし」

そう言って苦笑いをこぼすと宍戸くんも笑った。相変わらず鳳くんだけはオロオロしてたけど。ほら、と差し出された手につかまると先程まで起き上がろうともしなかった私の体が立ち上がる。男の子の力ってすごい。

「あの、本当に怪我はないですか?」
「大丈夫だよ。何もないから心配しないで?」
「でもっ……!」
「しつこいぞ、長太郎」
「宍戸さん……」
「妹尾が大丈夫っつってんだから大丈夫だろ。なぁ?」
「うん。だから、練習しておいで?」

ね、と笑うと鳳くんは渋々といった様子で頷いた。悪かったなと言ってラケットを担いだ宍戸くんと、本当にすいませんでしたと丁寧に謝る鳳くんを見送って私は球拾いを再開する。

(それにしても、剛速球だったなぁ)

黄色いボールを見つめて思い返す。当たらなくて良かった、本当に。桜、と祐美ちゃんが私を呼んだので、ボールで埋まった籠を持って私は彼女の方へ駆けて行った。









 
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