夏華ちゃんが教室を出て行ったすぐあと、ばたばたという足音がしてガラッと勢いよくドアを開ける音がした。そこにいたのは、金のふわふわの髪の男の子と、このクラスの担任でもある科学の先生の結城先生だった。

「せーふ!」
「なわけないだろーが馬鹿野郎」

ばん!と分厚い教科書で先生は男の子の頭をたたく。わぁぁ痛そう!わたしの感想と同じく男の子は痛っ!と叫んだ。

「結ちゃん痛いC!」
「自業自得だ。そして結ちゃん呼ぶな。結城先生様と呼べ」
「えー」

席につけと先生が言うと、彼はしぶしぶと席についた。席はわたしの左隣。つまり、教室の1番はしっこだ。不意にお互いの視線が合う。彼は目をぱちくりさせて、それから首をかしげた。何のことかわからなくて、わたしも首をかしげる。どうしたんだろう?

「結ちゃん! この子誰っ!?」
「つい昨日来た転校生だ。あと結ちゃん呼ぶんじゃねぇよお前の耳は飾りか」
「俺、ジローっての! しくよろー!」
「あ、えとっ小澤理紗子ですっ。し、しくよろ……?」

差し出された手をおそるおそる握るとぶんぶんと上下に振られた。わりと痛かった。ジローくん、でいいのかな?それと、しくよろってなんなんだろ?よろしくって意味に解釈してみたけど合ってるのかな……。

「芥川と小澤が仲良くなったところで授業始めるぞー。教科書出せ教科書」
「結ちゃんせんせー! 教科書忘れたー!」
「よし、立ってろ笹山」
「結ちゃん先生ひど! 理紗子も何か言ってやって!」
「え、えー……? えっと、ひかちゃんがんばって……?」
「応援された!」
「しかも疑問系かよ」
「理紗子ちゃんおもしろー!」

笑い始めるクラスのみんなに、結城先生が怒鳴るまであと数秒。


 ***


なんとか英語の授業を終えて、理紗子に借りた電子辞書と男の子が落としたテニスラケットを持って教室を出た。C組を覗くと、ちょうど授業が終わったようでがやがやと教室は騒がしい。

「理紗子ー!」
「あ、夏華ちゃん」
「辞書返しに来たよ……あーっ!!!!」

理紗子の隣の席に座っている、ふわふわの金髪の男の子。それは紛れもなくテニスラケットを落とした子だ。そんなうちの驚きの絶叫が教室中に響き渡り、全員がこちらを向く。うわぁ、やっちゃった!理紗子はビックリしたようで目をぱちぱちさせていた。

「ど、どうした、の……?」
「ごめんごめん! あのさ、これキミのでしょ!」

男の子にラケットを差し出すと、今度は彼が叫ぶ。そしてまた全員がこちらを向いた。ええええそんな顔でこっち見られてもウチに非は無いんですけどー!

「俺のラケットだC! なんで持ってんのっ?」
「それはキミが落としたからですです!」
「ジロー気づかないとかどんだけー!」
「ハハっ! 激ダサだなジロー!」
「え、えと、どんまいジローくん」

ひとしきり笑ったあと、理紗子の右隣に座ってた女の子があ、と声をもらす。

「ね、理紗子の友達だよねっ? うち、笹山ひかり! ひかって呼んでー!」
「うんっ宮永夏華だよ! よろしくね、ひか!」
「あ、オレ芥川ジロー! しくよろー!」
「ジローね! しくよろー!」

お互いに自己紹介を終えて、まだひとり紹介を受けていない人がいる。全員がじーっとその人物を見つめると、やっとしびれを切らしたようで、はぁとため息をつく。

「宍戸亮だ。よろしくな」
「うん! よろしくーっ!」

交流の輪、地道に拡大中です。









 
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