「そいえば、今日だっけジロちんがガッコくんの!」
「うん、そうだよー」
「柚菜、ジローくんが来るの嬉しいからって顔ゆるみすぎ」

ジロー?誰だそいつ。ふとした会話の中に出てきたのは知らない名前。そんなウチの様子に気づいたほたるちゃんが「ジローくんはテニス部のレギュラーで柚菜の幼馴染で柚菜が好きな人だよ」と教えてくれた。そうなんだ、と答えると、柚菜ちゃんは顔を真っ赤にした。

「ほたるちゃんっなんでそういうこと言っちゃうのーっ!?」
「あ、ごめん。祐美なら大丈夫かと思って」
「もう……祐美ちゃん、今のはないしょねっ。言っちゃダメだからねっ」

顔を真っ赤にして言う柚菜ちゃんが可愛くて、笑って了解と答える。いや、可愛さなら圧倒的にありすちゃんの方が上だけど、なんて思いながら頭の片隅にはいつだって彼女の姿。テニス部レギュラーなんだ、じゃあマネージャーするんだから会うことになるんだな。良い人、だと良い。

「そうだー! お昼休みにジロくん紹介してあげるー!」

約束ねーっと一方的に柚菜ちゃんに約束され、ウチはそれに頷くしかなかった。だって、あれは拒否の許されない表情と口調だったし。恐るべし柚菜ちゃん。お昼休みが、楽しみなような苦痛なような、そんなもやもやとした気持ちがウチのなかで生まれ始めた。


 ***


「……うそ、まじでか」

がさごそとカバンをあさっても、一向に姿を見せない電子辞書。うわ、英語なのに忘れるとか!予習してないのに!

「夏華? どうかしたのか?」
「岳人! 辞書忘れたっ! あと休み時間何分!?」
「多分あと2、3分くらいじゃね?」
「借りてくる―!!」

どのクラスに英語あるんだろ?とりあえず、理紗子にきいてみよっと!隣のクラスのドアを思いっきり開けて、きょろきょろと見渡す。あ、いた!一番前の席だ!友達と楽しそうにおしゃべりしている理紗子はいとも簡単に見つかった。

「理紗子ー!」
「え? あ、夏華ちゃん。どうしたの?」
「辞書っ! 電子辞書貸してー!」
「辞書? えっと……はい、あったよ」
「ありがと理紗子! 愛してるっ!」

ぎゅーっと抱きついてお礼を言って急いで教室に戻る。隣とは言えども、多少なりとは距離はある。ほんとにちょっとだけど。廊下を小走りで行くと、ふわふわの金髪の男の子とすれ違った。リュック背負ってるけど、遅刻かな?もう2時限目ですけど!心中で笑いをこぼして男の子を見やると、リュックからテニスラケットが落ちた。それでもかまわず男の子はクラスに入っていく。へー、C組なんだ。理紗子と一緒とかうらやまし!……いやいやいやラケット落としたの気づけよ!仕方なく拾って届けようとしたところでチャイムが鳴った。ええええ困る!ダッシュで教室に入り自分の席につく。ふぅ、危なかった!

「……ん?」

左手に電子辞書、右手にテニスラケット。……持ってきちゃった!

「お前なんでラケット持ってんの?」
「ええええうちも知らんよ! たぶん、さっきの男の子のだと思うけども!」
「さっき?」
「うん、ふわふわの金髪の男の子だよ!」

うちがそう説明すると、岳人は思い当たる節があるようだった。知ってるの?と聞こうとしたところで、先生が教室に入ってきてしまったので、それを聞くことはできなかった。









 
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