みなづき(0602)
「ねぇ、大丈夫?」
取り戻した携帯を充電器に挿し込んでベッドに腰掛ける。もう3年目の付き合いになる仁王は今日も当たり前のようにアタシの部屋へやってきて、そうして唐突にアタシの携帯で七摘さんに電話を掛けた。自分のにも彼女の番号が入っているはずなのに。何でわざわざアタシの携帯で電話をしたのか謎だ。電話を終えた仁王はどこか苦しそうで、辛そうで。
「……十時」
「うん」
「……何でもなか。大丈夫じゃよ」
立ち尽くす彼の声は震えていた。そっか、と気付かないふりをして机の上のコップに手を伸ばす。時間をおいてしまったカルピスは溶けた氷の水分で大分温くなってしまった。まずい。立ったままだった仁王はアタシの隣に腰を下ろした。泣いてはいないみたいだけれど、顔を俯かせたままでいた。
(大丈夫じゃないんじゃない)
(演技は上手いくせに、嘘は下手なのね)
「仁王」
「ん」
「昨日録画した番組見よ。先週の続きのやつ」
「んー」
「ほら、下行こ。どうせご飯も食べてくんでしょ」
ぐいっと仁王の腕を引っ張る。世話が焼ける男だ、まったく。十時、と仁王の声がこぼれる。なに、と返すと、やっぱり何でもないと返事がきた。困った男だ、まったく。
「おんぶ」
「無理だバカ」
「じゃあ俺がしちゃる」
「いらん!」
落ち込んだのかと思えば次にはこの態度である。わけわからん。元気が出たならいいけど。いいんだけど。なんだか、なぁ。
「仁王」
「姫様だっこ?」
「違うけど。手」
「んー」
ぎゅっと握りしめる。伝わる温もり。相変わらず低体温だな、仁王。今夏なのに何なんだこの冷たさ。もう一度握ると、強く握り返される。ねぇ、七摘さんと何があったのかは知らないけどさ、多分アンタが落ち込んだり辛かったり悲しんだり苦しんだり、そういう類のこと、本当は何にもないと思うんだ。ただ、アタシとかアンタとか、素直じゃないし嘘つきだし意地っ張りだから勘違いするだけで。だから、とりあえず、
(アタシが、傍にいてあげるから)
早く元気になれ、馬鹿。