かぜひき(0422)
雨が、止まない。
(梅雨だからかな)
傘がはじいた雨粒が、ぽたりと目前に落ちる。それが足元の水たまりに溶けて消える。跳ねた水滴がローファーに染み込んで靴下を濡らした。そろそろこのローファーも買い替え時らしい。
(四倉だったら)(臣くん、だったら)
彼の声が未だ頭に響く。甘美なんて程遠い、私を刺す声色。いやに映える銀色をもつ彼が、私は、嫌いだ。苦手だ。正直関わりたくないのだ。見透かされているようで腹が立つ。ぎゅっと握った傘の柄は硬く、噛みしめた唇は乾燥していたのかぷつりと切れ血の味がにじんだ。ああ、憎い。
(しあわせだよ、そんな未来があったなら)
叶わないなんて知ってる。私も、彼も。分かりきっている。貴方はいいよ、そんな未来が望めるから。私とは、違うから。ああ、やりきれない。
(はやく、おとなに、なりたい)
そうしたらきっと諦められる。泣かなくて済む。耐えなくて済む。きっと、他にもっと、好きになれる人が。
そこまで考えて首を振る。早く帰ろう。台所に立って夕食を作って、そして臣くんと一緒に食べよう。宿題をしてお風呂に入って、変わらない明日を夢見て眠ろう。そう、それだけで幸せなんだ。私は、これ以上なんていらない。
(私は、しあわせ)(しあわせ)
雨が、止まない。