取引の作法

「取引…?」
「はい。私にとっても、あなたたちにとってもメリットのある取引になると思うんだけど…受けてくれます?」
「…どんな取引内容かによるね。君は、僕だけに取引の交渉をしているわけではないんだろう?」
「ええ。取引相手はシビュラシステムよ」
我ながら、大胆な行動をしていると思う。これは、犯人に肘鉄喰らわせたときの比じゃないわ…
「内容を聞かせてもらおうか」
ごくり。
嫌に喉が乾く。息が詰まりそう。

「…私を、公安局に置かせて」

私は続けた。
「…出来るなら、刑事課一係で」
私の申し出に、藤間さん…いや、局長は呆気にとられた様子だった。
「公安局に置けば、私の監視も出来るでしょ?いざとなったら、消せばいい」
「君…は…自分が何を言ってるのかわかってるのか?」
「ええ、十分に」
「それは本気か?」
「はい」
今の私には、これしか方法がない。こっちだって、死に物狂いの命懸けだ。
賽の目は…どう出る?
「面白いことを言うね」
「…あなたたちほどでは」
平静を装ってはいるが、冷や汗しか出ない。正直震えそうだよ…

「シビュラは判定した」

「!」
どくり、どくり。
煩いくらい心臓の音が響く。
時間が、長い。鎮まれ、心臓!

「君の取引に乗ろう」

「!…本当に?」
よかった、という感情より先に、思わず疑いが出てきてしまった。
「シビュラの計算に狂いはない。ただ、それだけだよ」
機械的な口調だった。
「…ありがとうございます」
「それと…僕個人の興味本意でききたい」
今の言葉は、藤間さんか。
「…藤間さん、個人の?」
「そうだよ。…君は何者だ?せめて名前くらいは教えてくれないか?」
その目は、微かに笑っていた。
「…八月三十一日、十七夜…。ただのしがない子供ですよ」
「ただの子供がシビュラの正体を知っているとでも?」
「…それは内緒です。あ、それから…私のデーターなんて存在しないと思うので、調べようなんて考えないでくださいね」
悪戯っぽく笑いながら続けた。

「ほら、『女は秘密を抱えてこそ美しくなるのだ』ってね」

ウインクしながら笑った。
…しかし、我ながらウインクが似合わないと思う。だがしかしこういう場面ではウインクで決めたい、と思ってしまうのが私の性なのか…
「君は、なかなか食えない奴のようだね」
「私なんか食べたって美味しくないですよ。…話は、以上ですか?」
「うん。…君のことについては、私から一係に伝達しよう」
口調が、局長のものに戻った。
さぁ、本当の戦いは、これからだ。
私の先、どうなるか。まさに、『神のみぞ知る』ってところかしらね。

→続く






第一章の完結です。…長かった!

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