いつまでも私だけが好きみたいでばかみたいだ。彼からの愛が含まれた言葉さえ疑って説き伏せてしまいたいほどにはもう、酸欠の気分。自覚はあったが、それでも我慢をする私は最悪の結末になったとき、きっと生きていられないと思ったから。
だから彼が私との約束を破っても、他の子と楽しそうに話していても、バスケに夢中になっているときも悔しさと戦いながら、見えないところで唇を噛んでいた。
高尾くんはおそらく束縛を嫌う。飄々とどんなこともやりのけてしまう彼のスマートさが好きだ。阻むものすらすり抜けて、巧みに自分のペースへ持っていく。言い包められてしまう予感も、抗えない惚れた弱みも分かっていた。自分だけを見てほしい、でも離れたくない。


「高尾くん、本当にいいの?」

「もっと喜べよー。せっかく久々に一緒に帰れるんだぜ?」


ぎこちない笑みを返しても、彼は何も言わずに前を歩く。隣に並びたいのに、その広い背中を見ているだけで苦しくなって、こんなひどい顔を見られたくないと思う。
だめ、せっかく二人っきりなのに。


「それとも、俺のことなんてもう嫌い?」

「……好き」

「だよな。俺もお前のこと好き」


にかっ、と歯を見せて眩しい笑顔。いつもと変わらない彼。私が君と会えない間に抱いていた葛藤なんて知らずに。気まぐれ、という言葉が浮かんだ。付き合っているけど、実は私って都合の良い相手でしかないんじゃないか。好きなのに、辛いね。今だって高尾くんの言葉を素直に受け入れていない私がいるよ。


「高尾くんには私のこと、どう映っているのかな」


ぽつりと零れたそれに気付いた高尾くんがゆっくりと振り向く。縮まらない距離のもどかしさに緊張していたあの頃の初々しさは消えてしまった。本来触れたいはずの指先は私の涙で湿っていく。


「言ってよ……!」


もう一思いに、私のことを   。


「泣き止まなくていい」


彼に殺されるなら本望だとすら感じていた。自分から離れることは出来ないけど、高尾くんの手に掛かるならきっと、私は。
手首を掴まれ、流れる雫をそのままにしろと彼は言う。


「俺に言わせる前に、お前の気持ちを吐き出せよ」


真剣な目だったから、唇を噛んで応戦した。それで彼に別れを告げられるなんて絶対に嫌だ。どうせなら綺麗なままの私でバイバイをしたい。あの頃は楽しかった、そうやってまた友達に戻れるぐらいの可能性を残しておいてほしい。


「まあ、無理矢理でもいいけど」


高尾くんは私の化けの皮を剥がすつもりだった。試合中に見るような攻撃的な笑い方に、口調。私が好きな仕種の一つ。吐かせるための方法は一つ、キスで私の思考を鈍らせること。
抵抗がさらに彼のやる気に火をつけて、ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、動き回って。


「すっげー顔。とろけそうだな」


そうは言うけれど、君の顔も相当なものだよ。ぺろりと口端を舐めて目を細める高尾くんの色気を前にしては、もう打つ手がない。降参、小さく零したらフッと彼は笑った。


「……本当は私、すっごく我儘なの。楽しそうな高尾くんが好き。自由に振る舞うあなたの優位な姿についていきたい。でも、忘れてほしくない」


隣に並んでいたのに、置いて行かれているような感覚が寂しい。自由奔放な彼の魅力は皆を虜にしてしまうから、不安。自分から触れた指を彼のそれと絡ませて、慈しむ。


「今のキスだってすごく嬉しい。……ねえ、いつ振りか覚えてる?」

「あー……二週間ちょい?」

「毎日だってしたい。会いたい。私にそういう欲望があることを、気付いてないでしょ」


いつだって私は良い子のフリをしてきたから。文句も我儘も飲み込んで、高尾くんの邪魔はしない。それが彼のためだと、私の務めだと思っていた。最終的に爆発してしまった今、すべてを晒す覚悟は出来ている。


「いや、見えてた」

「……え?」


そう、すべてはこれからだったのだ。私が抱えてきた感情の理由を伝えるのは、今からだ。


「お前が怒ってるのも、泣いてるのも、堪えてるのも。隠れてたつもりかもしんねぇけど、俺には見えてたよ」


なのに高尾くんは違うと言う。
全部、知られていた。死角だと思っていた私が迂闊だったの?それとも視野が広い彼のせい?
後になってはそんなことどうでもいい。ただ、恥ずかしかった。顔全体を真っ赤に染める私のことを見て高尾くんは吹き出す。それから、そっと私の前髪を掻き上げて唇を落とした。


「ついでに言うと、お前を泣かせてここまで言わせたのも計算の内」


つまり最初から、高尾くんの思う展開になっていたということだ。なんて奴だ、と羞恥心を隠せず睨み付けても優勢なのは変わらない。まるで私の希望を叶えるみたいに、ふわりと腕の中へ閉じ込める。


「暴きたかったんだよ」

「知ってほしく、なかった」

「嘘吐くなって」


カラカラと笑う声はすんなりと耳に入ってくる。心臓のドキドキが収まらず、ぽんぽんと頭を撫でてくれる行為にときめく。私はいつまでこの人に恋をしているんだ。愛しすぎておかしくなる。


「女は少しぐらい我儘な方が可愛いぜ」


今日のところはその笑顔に免じて負けを認める。でもまだまだ、君への想いは君が思っている以上のものだと言うことを、徐々に分からせてあげる。挑戦的な目に何かを感じ取った彼が「いつでもいいぜ」と受け入れ態勢。
好きになってよかった。そう伝えたら俺も愛してるから、だってさ。
まったく。愛されるのって苦しくて、心地良い。

君の知る私なんてまやかしにすぎない


慈愛とうつつさまへ提出
2012.08.18 依夏


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