キラキラ動く光、反射する私自身、どちらを眺めているか判断は出来ないが、ひとつ言えることとすれば考え事をしているというぐらいか。
思考を巡らせるが結論には到らない。誰に示すわけでもなく、首を傾げれば目の前の私も同じ動作をするものだから思わず「分かんないよね」と頷いてしまった。


「さっきから何してるの?」


パソコン画面に注がれていた瞳が移動して、臨也は大きな窓にくっついていた私を見上げた。


「あのね、臨也のことを考えていたの」


そう言えば、彼はへえと興味深そうに私の顔を見つめた。背もたれに寄り掛かりながら偉そうに踏ん反り返る臨也。
さらり、彼の前髪が揺れる。


「臨也が泣くのって、どんな時かなって」

「……はあ?」


呆れたような声を出し、それから先は何も口には出さずにただ私の顔を見つめて。
そして臨也は、再び目の前のパソコンに向き直った。


「ちょっと、聞いておいてシカト?」

「そんな下らないこと考えてるとは思わなかった」

「仮にも臨也のことなのに?」


パソコンと臨也との間ににょきっと己を侵入させてやれば、ふっと彼の顔が穏やかになった。椅子を引き、向き合ったかと思えばぐっと私のことを引き寄せた。
腰に手を回し、愛を添えるような声音で囁く。


「そんなことより、俺が笑ってる時のことを考えなよ」

「でもそれいつもだから。たまにはちがう臨也も見たい」


彼の両頬に手を這わせ、そっと顔を持ち上げる。相変わらず綺麗な顔してるなぁなんて思っても言ってはやらない。
合わさった瞳を覗き込みながら、私は自分で推測してみたことを話し始めた。


「私が思うに臨也はマゾだから、案外大好きな人間から同じぐらいの愛を受け取ったら泣くかなって」

「俺はマゾじゃないし、そもそも俺が語る愛と同等またはそれ以上のものを人間が返してくれるとは思えないね」


私が手を離せば途端に饒舌になって、それだけ自分の愛は相当深いもの、永遠の片思いでいいのさ等と語る。聞き飽きた私は口を尖らせながら拗ねるように彼の頬を軽く抓った。
いつもいつもそんな話ばっかり嫌になっちゃう。


「例え話をしてるのに」

「そうだなぁ、嬉し泣きしちゃうかな?」

「……つまらない」


私が想像している泣き顔じゃなくて。
しかも臨也にとっては素晴らしいことになっちゃうじゃない。いつだって彼が思う対象は人間そのもので、私ひとりだけには向けられない。


「なら君が実践してみればいい」


いきなり立ち上がった臨也がそんなことを言うものだから、私のマイナスに働いていた脳は彼の言葉を瞬時に理解できなかった。私の手を握り、誘うように彼は歩き出す。
挑戦的な笑みを貼り付けて、私のことをからかうような口調。


「夜が明けるまで付き合ってあげるよ」


その語尾にはクエッションマークがついていたけど、私には断言に聞こえた。掴まれていない手を胸の前でぎゅっと握りしめる。
彼の思惑は分からないけど、それならやってやろうじゃないか。

あなたが思っている以上の愛を伝えて、私があなたを泣かせてあげる。
嬉しくて涙を流すなんてそれは私には好都合。好きだから、


「一緒に泣いて、笑い合いたいの」

「そうなるのは、俺か君か。今夜明らかになるってわけだ」


選択肢が抜けてるよ、臨也。
二人でなんて考えてないのか、それともはぐらかしているのか。
どちらでもいい。それを示すのが私の役目だと言うのなら、この夜をぶっ壊してでも明日に進もう。そこにどんな二人がいようと、たぶん後悔はしない。


「離さないから、覚悟しててね」


強気に言えば、諦めたように笑う臨也。あれ、そんな切なそうな表情はまだ早いよ。
私は君のものだけど、君は私のものじゃない。そうでしょう?


「望むところだって言っても、君は信じないんだろうね」


なら、君のすべてを私のものにさせてよ。
もしも、もしも既に君は私のものだって言うんなら、それは結果的に本末転倒。笑うのは彼、泣くのは私。そんな結末は御免だから、今だけは頑張らせてよ。
誰があなたを一番愛しているか教えてあげる、この夜が死ぬまで



歓落さまへ提出
2011.04.02 依夏


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