名もなき気持ち
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空は重く灰色の雲に覆われている。いつも賑やか(五月蝿い)な屯所は静寂に包まれていた。
「佐藤先輩、あの…皆さん、遅いですね?」
「何て顔してんのよ!…信じて皆さんを笑顔で迎えること。いつも通りにね…それが私たち、女中の勤めよ」
「…はい」
佐藤先輩は大ベテランの女中の先輩。いつもはこの時間には家に帰られるが住み込みの女中が私だけでしかも、大きな作戦の為一緒にいてくださっている。
佐藤先輩に背中を叩かれ渇を入れられる。私は皆さんをもちろん信じて待ってる。
「沖田さん…」
気が付けば呼んでいた沖田さんの名前。いつも悪戯したりサボっているところしか見ないけど、真選組一の剣豪使いだと以前、近藤さんに教えて頂いた。でも、隊士の中でも若く子供らしい部分しか見たことがないからどうしても心配してしまう。
◇◇◇
「帰ったぞー!」
数分後、局長の声と共に隊士の皆さんは無事に帰還された。沖田さんは当り前のように傷ひとつ無くいつも通りに土方さんに怒られている。流石、真選組一の剣豪だ。
「皆さん、お疲れさまでした」
おしぼりにした熱いタオルを皆さんに配る。真っ白なタオルは皆さんが頑張った分茶色や赤に染まっていく。
「ありがとうごぜーやす」と言いながら渡された沖田さんのタオルを抱きしめる。遠ざかるその背中が見えなくなるまで…胸がギュッってなった気がした。
(明日も会える。)
(そんな、当り前なことに喜んだ。)