いつのまにか、外は雨が降っていた







ずぶ濡れで病院に着いた俺を待っていたのは、虫の息の名前だった







ドアを開けた瞬間、泣き崩れた名前の母親が目に入った







先生と、目が合う






名前の呼吸器が外された





「あぁ、来ちゃ、たの」




「…分かってたのか」





「…そりゃ、ね、自分の、体、だから」





途切れ途切れ、苦しそうに、名前が言う







「何で、何で…!!お前は、何も悪くないのに…!!何で…!!」




「しょう、がない、よ…」






「死ぬな、絶対死ぬな!!俺が許さねぇ!!」











「ねぇ、大輝、私、大輝が、大、好きだよ」






伸ばされた手を咄嗟に掴む







暖かい




こんなにも、暖かいのに





雨で冷えた頬に、冷たい何かが伝う





「大輝、泣いてる」




「泣いてねぇよ、雨だ、バァカ」




「そう、だね、泣かないで」





止まらない雫は、名前が横たわるシーツにしみを作った





「何で、何で…!!」







頼むから、死ぬなよ




お前の事、大好きなんだ、愛してるんだ





何でも、やってやる



お前の為なら、何でもする





思い出だって、いっぱい作ろうって約束した




バスケの回数も減らして、見舞いだって来た





なのに、






伝えたい事はたくさんあるのに、言葉が出ない





「なん、で」





「さっきから、そればっかだよ、バカ大輝」




「てめぇに、言われたかねぇよ」




「ねぇ、涙で見送られるなんて、私、嫌だよ」





「るせぇ、死ぬんじゃねぇよ」





「大輝、笑って」





誰のせいで、こんな泣いてると思うんだ





「笑って、笑顔で、見送って」





濡れた顔を必死で歪めて、笑顔を作る







それでも、涙は止まらない





「や、と、笑った、ね」





私、大輝の笑った顔、大好き







俺も、お前の笑った顔、大好きだ








「あのね、大輝、大輝は、生きてね

 私の分も、元気に、生きて、私は忘れて、新しい彼女作って、
 結婚して、幸せに家庭作って、子供も出来て」




お前無しの世界で、どうやって生きろってんだよ





「それで、おじいさんになっても、元気で」




んなこと勿論に決まってんだろ






「でも、でもね、ほんとは、こんな、の、言っちゃダメだけど、
 大輝、縛っちゃうけど、
 忘れて、欲しく、ないよ、ずっと、想ってて、欲しい」





分かってる





「他の人を、好きにならないで、それで、それで…!!」





「分かってるよ」






「好き、大好きなの!!大輝が、大輝が好き!!死にたく、ないよ、
 まだ、生きて、生きて、もっと大輝と過ごしたかった…!!」




「……」






止まれ、止まれよ、俺の涙




笑顔で、見送るって、決めたんだ







「…でも、もう、ダメだね」






綺麗な、顔だ




今までで、一番、綺麗だ





「…ねぇ、大輝、最期に、キス、して…

 甘くて、もうこれで死んでもいいな、って思えるやつ」





そう言う名前に俺は優しくキスを施した





「あ、は、しょっぱ」




「うるせぇよ」





「ね、大輝、名前、呼んで」





「名前」





「もっかい」






「…名前」






「もっかいだけ」








「…ッ、名前」









「大輝、」












今までありがとね、大輝のこと、好き、大好き、ずっと大好きだから










結局最後まで、「愛してる」って言ってくれないのかよ








ごめんね、あと、プレゼント、開けてね、絶対










…分かったよ、うるせぇな、黙んねぇと、その口塞いじまうぞ









それも、いいかもね








おい








ねぇ、大輝











なんだよ










誕生日、おめでとう、生まれてきてくれて、ありがとう








おやすみ
















あぁ、おやすみ、ゆっくり眠れよ













握っていた手の力が弱まって行く







段々と、冷えてくる、名前の体







微笑んだまま、表情を変えない顔









もう開く事のない瞼と、愛しい唇












誕生日、おめでとう、そう遺して、名前は逝った























今日は8月31日、俺の生まれた日だ





そして──









そして、名前が死んだ日だ




















Etarnal Love
(プレゼントのメッセージカードには、直接聞く事の出来なかった愛の言葉が綴られていた)








20120831







峰で切甘


誕生日だからこそ死ネタ←




相変わらずのgdgdを読んで下さり、ありがとうございますた!!


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