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きらめく稲妻

「リッツ」
 ふ、と。唐突に声をかけられて、リッツは反射的に振り返る。
 ここは精霊の国セクンダティ、トニトルス。そよ風が木々を揺らす風景のなか、人混みの向こう側に小さなグラデーションが見えて、リッツはうんと目を細めて笑った。小柄な少女を見失わないよう人混みを縫いに縫って駆け出し、人通りの少ない郊外へ抜ける。
「なまえじゃん! どうしたの、会いに来てくれたなら迎えに行ったのに」
「……別に。ここに来たのはたまたまだし、偶然あんたの姿が見えたから声をかけただけだよ」
「えっ――あんな人混みなのに!?」
 リッツはまあるい目を見開いた。長いまつげに縁取られたエメラルドの瞳が、驚愕の色に染まりながら瞬かれる。どうして、なんで、と問い詰めたくなるのを堪えて――その表情がすべてを物語ってもいるが――なまえを見つめていると、目の前の少女は観念したとでもいったふうに息を吐いて、口を開いた。
「だってあんた、目立つのよ」
 なんとなく決まりが悪そうに目を逸らすなまえ。前髪の隙間から頬が染まっているのが見えて、リッツはどうにも嬉しくて堪らなかった。キスしたい衝動をなんとか抑えて小さな体を抱きしめると、予想外に鋭い鉄拳が飛んでくる。当たれば昏倒必至のそれをすんでのところでかわして、今度は両手を繋ぎとめてから、アイオライトの瞳を見つめた。まっすぐ見据えたそれは揺れるたびに色が変わる。くるくる変化するこの色を、リッツは特に好んでいた。
「あはは、じゃあ、今度はオレも見つけるね」
「はぁ!?」
「だから、なまえが人混みにいるときとかさ、オレも一瞬で見つ――」
「今度ヒジャブ被ってくるわ……ていうか、あたし元々めちゃくちゃ目立つからそういうの要らないし、嬉しくもないし」
 ぶつくさ続くなまえの話も、正直なところリッツの耳には入っていない。右から入って左へ抜けると言ったほうが正しいだろうか? なまえには悪いが今はそれどころではないのだ。
 だって今はこの小さな女の子が、何よりも先におのれを見つけてくれたことの喜びに、じっと浸っていたいから――


20170815
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