LOG

君を想う、ゆえに。

「お姉ちゃん、最近紫好きだよね」
 深夜。本丸の片隅に宛てられた私室にて、所属する刀剣男士の談義を行っていた最中。やれ誰が美しかった、やれ誰はイマイチだったなどと、独自の採点を交えながら話していた折、ふと発せられたねいむの一言に、なまえは大きく目を見開いた。垂れ下がった目をまあるくしたその表情には、どことなく姉妹の繋がりが窺える。
「この前新調したお箸とか、お気に入りの手鏡とか。薄い、そう、藤色の物、増えたよね?」
 奇しくも本日の談義はなまえの自室にて行われており、周りはぐるりと彼女の私物で囲まれている。改めて思い返してみると、記憶のなかにちらほらと見え隠れする藤色。思わず顔を両手で覆ってうつむいた。
「……無意識だ」
「あはは、だよねえ。意識してたら逆に無理だよねえ、お姉ちゃんは」
 今日のパジャマもそうだよね、とねいむのトドメがなまえに突き刺さる。時の政府に支給された、元の世界より取り寄せたらしいよくある寝間着だ。軽い注文を取られたことも、そしてそのときに何の迷いもなくこの色を指定した自分のことも、はっきりと覚えている。どこまで。どこまで自分は、彼のことを。
 他の者にもバレているだろうか、か細い声で問いかけてみる。さあね、と含むような一言が返された。薬研くんみたいに聡い子なら気づいてるんじゃないかなあ、というオマケもついてきて、いよいよなまえがうなだれる。
「まあでも、わからなくもないんだ、そういうの。ううん、むしろよぉくわかる」
 ふと顔を上げてねいむを見る。照れくさそうに笑う彼女が、まとめていた髪をするりとほどいた。髪を結わっていた紐をよく見ると、それは品の良い山吹色。燭台の炎に照らされていると、見ようによっては金にも見える。脳裏に、1人の獅子が浮かんだ。
「やっぱりねえ、思い出しちゃうんだよねえ。それがよく目につく色なら尚更」
 うんうん、と頷きながら、この上なく愛おしそうに、ねいむが髪紐を撫でている。彼女はきっと、その色の向こうに彼を思い浮かべているのだろう。審神者として慈しむでなく、1人の女の子として愛している、愛すことが出来るあの子のことを。
「……そうだな」
 羨ましい。そう思った。
 ただ純粋に、誰かを愛おしく思える妹が。何の翳りも、後ろ暗さもなく、ただひたすらに、一途に、想いあえるこの2人のことが。
 そして何よりも自分の弱さが、腹立たしく感じたのだった。
- ナノ -