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無題

×××へのお題は『惚れたほうが負け、とはよくいったもんだ』です。
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花丸を見たよ!的な、パロディ半分でお願いします

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「獅子王、獅子王! ちょっと手伝って〜!」
 どこか弾んだなまえの声色に、なんとなく嫌な予感がしたのは何故だろうか。
 いつものように穏やかでゆっくりとした口調とは裏腹に、獅子王を呼ぶ彼女の言葉はまるで新しいおもちゃを見つけた幼子のようであった。
 否、獅子王の前での彼女は年相応に、むしろ少し子供っぽく思える所作さえ見せる。それはきっと獅子王が彼女の姉によって顕現されたことに起因しており、獅子王もまた、そんな彼女の姿を愛おしく思ってはいるのだが――
「こっ――なまえちゃん!?」
 それゆえに、向こう水で突飛な行動に走ってしまうのが困りものだった。
 今、彼女は本丸の屋根によじ登ろうとしている。どこから持ってきたのかわからない、おおよそ彼女ひとりで運べそうにもないハシゴを立てかけようとしているらしいのだが、やはり安定性に欠けるようで、今にも倒れそうにおぼつかない足取りのまま獅子王を振り返ったのだった。
 よそ見すんな! という叫びが声になるよりも早く、獅子王は彼女に駆け寄ってハシゴを奪い、数歩離れた壁へと立てかける。その素早さは短刀にも負けず劣らずであり、ハシゴの重さを考慮すると火事場の馬鹿力に他ならなかった。
 早送りのように行動する獅子王を呆気にとられたまま見ていたなまえは、しかし我に返るとぷくりと頬をふくらませて拗ねるような態度を見せる。ふん、と顔を背けた彼女の肩に手を乗せ、目線をあわせようと獅子王が屈んだ。
「なまえちゃん。なんでこんなことしたんだ?」
「……獅子王もおんなじことしてたから」
「俺ぇ!?」
「昨日見たでしょ、花丸!」
 陸奥守くんと一緒にいたじゃない! というなまえの言い分に、はあ、と気の抜けた返事をしてしまったのは仕方ないことだろう。確かにあの本丸の自分は屋根に登っていたけれど、そういえば何かの絵でも同じくだったか。
「私も、やってみたかったんだもん……」
 しょげるように視線を向けてくる、その姿に愛おしさが込み上げたのもまた仕方ないことだ。抱きしめたくなる衝動をぐっと抑え、ことさら優しくその名を呼ぶ。
「でもさ、ここの俺は登ってないし。てか、2人で登らなきゃ意味がないだろ? 1人で登って降りられなくなったら困るしさ」
「けど……」
「もうちょっとなまえちゃんが大きくなったら一緒に登ろうぜ。俺ずっと待ってるから、さ」
 それは、数年経っても傍にいるという誓いを込めた言葉に違いない。なまえもその意図がわかったのだろう、どこか落ち着かなそうに指をもじもじと遊ばせ、けれど嬉しさを抑えきれない様子で頬を染めながら微笑んだ。
「約束だからね」
「おう!」
「じゃあ今日は練習に――」
「それはダメ」
 全然こりてないじゃんか、と付け加えるのは野暮だろうか。
 けれど、その粘り強いところすら何だかんだで愛おしく思ってしまう、それが人の言う「惚れた弱み」なのだろうと、心中で白旗を上げる獅子王だった。
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