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私はそれを恐れるだろう

 誰かが言った、自分たちは似た者同士なのだと。
 生憎と私にはその言葉を否定する理由がない。ひとつ拾うとするなら見た目だってそうなのだろう、前髪は尚のことだが頭頂部で主張するくせっ毛、黒髪、色こそ違えどまあるい瞳。顔立ちだってそうかけ離れているわけでもなく、神と人、刀と審神者の違いこそあれ、ともすれば姉弟(兄妹とは言ってやらない、念のため)と見られることだってあるかもしれない。
 彼――鯰尾藤四郎を近侍に迎えたのも、同じことを考えたからだ。似ている気がした、近い気がした。時として危険信号とも言うべき「何か」が私に囁きかけていたのだろうと思う。今ならば警告と呼ぶかもしれないそれを、愚かしい私はどこか運命じみたものに感じてしまった。
 あのときは気づけなかったのだ、近いことがどれだけ恐ろしいのかを。否、わかっていて目を逸らしていたのかもしれない。あの頃の私は――今だってそれは変わらぬのだけれど――言いようのない淋しさや侘しさ、寂寥を抱えていたのである。だから似ている彼を求めたのだ、きっとどこかで浅ましくも救われたいと考えていたこの邪な心が、彼と関わることでその糸口を掴もうとただひたすらにもがいていた。
 しかしそれがどうだ、今の私は彼に踏み込まれることをこんなにも恐れている。「大丈夫」の裏に隠した弱音を、「平気」の言葉で覆った傷を、「何でもない」と言い聞かせた悲しみと飲み込んだ涙を程なくして暴くだろうあの手のひらが、笑顔がこれほど恐ろしいだなんて。救われたいと思いながらもどうせそんなこと叶いっこない、叶わない願いを抱いては自嘲する日々に慣れたせいで、言わば拒否反応のようなものが起こってしまっている、のだろう。たとえそれが、ある種の傷の舐め合いだとしても。
 しかし時おり見せる彼の表情はどこか泣きそうに歪んでいて、嗚呼、私はそうしてようやっと思い出すのである。彼が、彼こそが、救われたくて癒されたくて愛されたくて仕方がない、ぽかんと虚ろを抱えた1人の男の子であることを。そしてその何かを求めんとする目つきに射抜かれて初めて、私はまた薄暗い安堵感を覚えるのだった。
 ――そうだ、私たちは似ている。痛ましいほど、狂おしいほどにそっくりだ。けれどただひとつだけ異なることがあるとするならば、それは彼が忘却に喘ぎ、私が記憶に嘆いているという一点である。
 救われたいけど、それが怖い。癒されたいのに傷は消えない。愛されたくても心が拒む。そんな、染みつきすぎた矛盾を小さな小瓶に詰め込み、キツく蓋をして、腹の底に飲み込んでは吐き戻すことを拒んでいたのは、果たしてどちらのほうなのだろう。
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