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ぼくたち日和

 IDOLiSH7、TRIGGER、Re:valeの12人が新しい試みに挑戦すると聞いたのはつい先日のことだった。
 なんでも、各人の誕生日に発売されるらしいムック本。私生活を激写したとっておきの写真、メンバーとの対談というおいしい要素をしっかり掴みつつ、何と言っても誕生日が発売日になるという特別感に、まだ最初の刊行から2月残された今でも話題沸騰中である。
 かく言う私も相方から教えられて特設サイトを覗いている真っ最中なのだが、何より目を引いた……というか、度肝を抜かれたのはこの表紙のコンセプト。だってどう考えてもこれは――
「なに見てるの」
「ウギャアーーーーーーー!!!」
 ――現役アイドルの声量を舐めるなかれ。不意打ちすぎるのはもちろん、一番知られたくなかった相手の登場により、思ったよりの叫び声が飛び出てしまったらしい。押し黙ったまま耳を押さえて顔を覆うは予想外の来訪者――もとい、今さっき帰宅したらしい天ちゃんだ。せっかく彼が不在のときを狙ったというのに、今日は午前様な予定と聞いてはいたものの、やはりリビングのど真ん中で見るのは油断しすぎていた証拠である。そして不用意な雄叫びを浴びせるという言い逃れの出来ない状況を作ってしまうとは、心の中で未来の自分に合掌しつつそろりと天ちゃんの様子を窺った。
「あ、あのう、天ちゃん……? 早かったね……」
「……機材の不具合で帰された。生憎だけど今日は他の仕事も入ってなかったから」
「そうなんだ……」
「これでボクの耳が使い物にならなくなったらどうするつもり」
「そうなったらこの私が責任を取らせていただきます! ……じゃなくてっ、あのさぁ!」
 もう逃げるのは無しだ! 正々堂々尋ねよう!
 自分が何かとんでもないことを言ってしまった気がすることはまあさておき、思い切って天ちゃんの眼前にノートパソコンを差し出す。今しがた開いていたページを一瞥した天ちゃんは、ああ、と合点がいったように頷いて私を見る。
「まだ撮ってないよ。当たり前でしょ」
 私が訊きたかったことにすんなり答えてくれる天ちゃん。すごいような怖いような複雑な気持ちを抱えつつ、とりあえずノートパソコンを閉じて机に置き、再び天ちゃんに向き直る。耳鳴りもそろそろ治まってきたのか先ほどよりは苛立ちも少なそうな撫子の瞳が、どこか熱っぽく私のことを見つめていた。
「好きな人と過ごす朝、なんてね。こんな姿は晒せないし」
 気持ちを作るの、さすがにちょっと時間がかかりそうだから。
 そう呟いたのはいったい誰なのか。ここにはファンの求める九条天などどこにも居ない。居るのは少し気が抜けたような、とろりと甘えたがりの私の弟だけだ。「こんな姿は晒せない」もし私に同じ仕事が舞い込んだとしても、きっと今の天ちゃんと同じ気持ちで、同じことを言うのだろうと思う。
 そしてまた湧き上がるのだ。好きな人、それが誰なのかわかっているのに、どうやったって伝えられず触れることすら出来ない今に感じる、消し去れない歯がゆさが。
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