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あざといポーズ

「ッ、きゃあ!」
 物陰から出てきた怪物に驚いたのだろう。なまえは控えめな声をあげ、隣の至にしがみついた。
 今はホラーゲームをやっているところだった。やっている、というよりは、プレイしている至の隣になまえが座り、そのさまを鑑賞しているといった具合である。雰囲気を出すために部屋の電気を消して、カーテンも閉め切って、明かりはテレビの液晶のみ。2人の輪郭を鈍い光が照らし出している。目ぇ悪くなりますよ、といった綴の小言が聞こえてきそうなシチュエーションだ。
「……おまえさ、ホラー平気じゃなかったっけ」
「平気だね」
「じゃあなんでそんなビビったふりすんの」
 なまえのホラー耐性はそこそこ高い。グロテスクなものにもそれなりに耐えうる程度の精神力をしているので、英語の堪能さも相まって最近は洋ゲーにハマっているようだった。
 なら、なぜそんな彼女が悲鳴をあげるような真似をして引っつきにいくのか。なんとなく答えはわかっているくせに、至は確認を取るように訊ねてみる。
「だって、そのほうがホラゲやってるって雰囲気出るじゃん。至くんもテンション上がるでしょ」
 ふに、ふに、と右の二の腕に当たる柔らかな感触。いくら干物でゲーマーだろうと至だってれっきとしたひとりの男である。つまり、こんな暗がりの密室で、密着して、ポーズとはいえ頼るような素振りを見せられると、現金ながらもやる気が出てきてしまうというわけだ。
 それをなまえは理解している。理解していて、自分の武器を最大限に利用しているのだ。
「……正直なところめちゃくちゃアガってんだけど。これからボスだし集中できなくなるのは困る」
「たしかに」
 すい、とすんなり離れるなまえに一抹の淋しさを感じるのもまた、悲しいくらいに単純な男の性というものだろう。
 もう一度、早く、再び彼女に触れておきたい。ならばどうする? さっさと敵を倒すのみ。不純かつ情けない闘志を胸に秘め、至はこれからの決戦に向けてコントローラーを握り直したのだった。

20180727
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