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桜吹雪の真ん中で

「ねいむさん、ねいむさん! 見てください、満開ですよ!」
 桜並木をまっすぐ見上げながら、咲也くんは弾んだ声でわたしの名を呼んだ。桜色の花吹雪のなか佇む咲也くんは、なんだか桜と同化してしまいそうなほど、淡いぬくもりの色がよく似合っている。優しく微笑む横顔を眺めて浮かんだのは、桜の下には――という一節だった。
 桜が似合う咲也くん。彼の生というものもまた、誰かの死の上に成り立っているものなのだろうか? もしかすると、彼の亡くなったご両親は今もなお彼の足元で――そう考えかけて、やめた。親を悪だと決めつけるのはよくない。彼のように純粋な子の親なのだから、たとえ桜になぞらえようとも在るべき場所は地の底じゃない。
 きっと彼らは、はらはらと舞う花びらのように、降り注ぐ慈愛の瞳で愛息子を見守っているはずだ。

20180515
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