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あなたしか見たくない

「なまえ、最近メガネかけてること増えたんじゃない」
 手元のスマートフォンから目を離さず、独り言のように吐き出された言葉。一体それが何を思っての発言なのかわからないまま、なまえはそうなんだよね、と頷いた。
「なんかね、進級してからまた悪くなったみたい。普段もかけてないとよく見えなくて」
「俺の顔もわかんない?」
「至くんは気配でわかるよ」
 ふざけたようにに言ったそれがまるっきりの冗談でないことくらい、至には簡単に察されているのだろう。くつくつと喉奥で笑う彼はロードの合間に手を離し、ぽふぽふとなまえの髪を撫でてくる。
 お前なら半径50mの距離でも気がつきそうだな、と言われたのにはさすがに無理だと言い返したけれど、それが出来ればどんなにいいかと微かに胸が軋んだ。
「いいんじゃん、メガネ女子。知的なみょうじさんにはよく似合ってると思いますよ」
「その言い方やめてほしいんだけど」
 無防備な脇腹を小突いてみる。小さなうめき声をあげつつ肘掛けのほうへ倒れていった至を、なまえは笑いながら見送った。

20180519
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