Fire Emblem

永遠のように

 それは、ひどく穏やかな昼下がり。ミネルヴァちゃんとお空の散歩を終わらせて、ジェロームと二人、のんびりと過ごしていたときのことだ。

「やっぱ、ジェロームの顔かな。できれば仮面は取っててほしいけど」

 出し抜けに口を開いたわたしに、ジェロームはひどく怪訝そうな顔をする。いくら仮面で目元を隠していようとも、口元が思いきり歪んでいるので戸惑っているのはまるわかりだ。

「おい、ナマエ……いったい何の話だ」
「え? いや〜、もし自分が死ぬとしたらさ。やっぱ最期に見ていたいのはジェロームの顔だなって」
「……お前のことだ。どうせ私に殺されたいとか言うつもりなのだろう」
「あ、よくわかったね。確かに、少し前ならそういうこと言ってたと思うよ」

 再びわたしを怪訝な目で見るジェローム。違うのか、と問う声は、呆れ返っていた当初とは打って変わって、ほんの少しだけ浮いているようにも聞こえた。

「今はね、ジェロームと――ジェロームやミネルヴァちゃんと一緒に、どこまでも生きていきたいと思うの。不思議だよね。ほんの少し前は死にたくて死にたくてたまらなかったはずなのに」

 わたしは、ほんの数年前――絶望の未来で生きていた、あの頃のことを思い返す。
 しかし、当時のわたしが本当に死にたがっていたかどうかはわからない。わたしには、おのれのなかに巣食っていた絶望感や不安、焦燥、その他諸々の悪感情をうまく言葉にできなかったからだ。
 当時の毒気がすっかり抜けて、少しばかり冷静になった今はおのれの感情や吐き出し方に疑問を持つことができるけれど――でも、あの頃は本当に、毎日を真っ暗闇のなかで過ごしているような気分であったものな。
 今みたいに安らぎのなか過ごせるのが嘘だと思えるくらい、当時は本当に、色んな意味で荒れていた。

「でも最近はね、すこしだけ前向きに考えられてる。おじいちゃんおばあちゃんになってもジェロームにはずっと傍にいてほしいし、どうせなら寿命でぽっくり逝きたいんだ」

 わたしにしてはなかなかの変化でしょ? そう笑ってみせる。
 わたしの言葉が予想外だったのだろう、ジェロームは仮面越しでもわかるくらいに動揺し――しかし、すぐに雰囲気を穏やかにさせ、小さく咳払いをした。もしかすると照れているのかもしれない。

「――そう、だな。私も同じ気持ちだ。お前と共に終わるときは、戦火に喘ぎ朽ち果てるより、穏やかな余生を過ごしてからがいい」
「うん、うん。決まりだね」

 わたしが肩にもたれかかると、ジェロームはいささか戸惑いながらも、しっかりとそれを抱いてくれる。見た目に反した優しい手つきが、わたしはひどく好きだった。

「約束だよ、ジェローム。ずぅっと一緒にいてね」

 わたしの首元にあるのは、かつてジェロームが贈ってくれた首輪――もとい、手づくりのペンダント。それを指先で遊ばせるたび、おのれがジェロームのモノであるという実感と、胸の奥がくらくらするほどの多幸感を得られる、わたしにとって唯一無二の宝物だ。
 いつか果てるときは、二人で。そう誓いあったわたしたちは、たとえ再び運命に翻弄されたとしても決して離れることなどないと、そんなふうに確信できるくらい、硬い絆で結ばれている。


あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『最期に見たいもの』です
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2022/09/05

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