星空を夢見て

ほんとうのぼくたちは、

 ――あ。あの人たち、またやってる。

 教室の窓から見える景色の真ん中に、やけに目立つ四人組のすがたがある。校庭の隅にいるはずなのになぜだか目を引くその集団は、つい先日結成したらしい四人組のユニットで……名前は確か、「Fantasista SQUAD」だったか。
 輝夜にとって見知った顔はふたつ。同じクラスの生徒であり学級委員をやっている天馬司と、たまに店へ買い物に来てくれる隣のクラスの神代類だ。学校きっての変人だと並び称される二人に混ざっているのは、たまに廊下ですれ違う程度の一年生コンビである。
 突飛なようで、けれども、なんとなく馴染むようでもある。そんな、不思議な組み合わせだった。
 さすがにこの距離では何を話しているかまでは聞き取れないが、それでも類の無茶振りに司が振りまわされているのであろうことは見て取れる。青ざめている彼は今にも逃げ出しそうな様子で――しかし、類の口車に乗せられたのだろうか、すぐにやる気を出して機敏に動き始めていた。
 ……単純な男なんだな。いつも騒がしくて眩しい司は輝夜と正反対の位置にいる人間なわけで、正直なところ彼については何も知らない。破天荒なくせになぜだか人に慕われていて、変人と呼ばれているのにどうしてだが孤立していない、そんな不可思議なやつだということくらいしか、輝夜は彼を知り得ない。
 自分にとっての司は、目があうことすら稀有な人。同じクラスのくせに決して交わることのない、そんな、遠い世界の人間だった。

「……楽しそうにやってるな」

 教室内の喧騒にかき消されそうな独り言を落として、輝夜は視線を窓から手元のスマホに戻した。


  ◇◇◇


 ふ、と。誰かの視線を感じた気がして、弾かれるように顔を上げた。気配の先には自らが所属する2年A組の教室があり、なんとなく見覚えのある横顔が見える。
 あれは確か――そう、玉村だ。昨年度、いやに熱心な様子で中庭の花壇の世話をしていたことを、うっすらとだが覚えている。今年度も変わらず緑化委員に所属しているのだと、いつだったか類が言っていたような。
 とはいえ、あの玉村がこちらを見ているわけもない。彼女はあまり他人と関わろうとしていないようだったし、正直なところ、進級して同じクラスになってからも、目立った会話をしたことすらなかった。

「……司くん? どうかしたのかい?」

 こちらの様子をうかがう類は、ぱちくりと目をしばたたかせながら首を傾げている。練習中に気を散らすことが少ない司だからこそ、だろうか。
 急いで視線をそちらに戻すと、冬弥と彰人も同じように司のことを見ている。疑問符でも見えそうなその顔に、少しだけ申し訳ない気持ちになった。

「司先輩、何か気になることでもあるんですか?」
「あ、いや……すまない。なんとなく、誰かに見られているような気がして」
「誰かって……知り合いとか?」
「いや――」

 そんなことはない、と言いかけて。ちくりと胸がいたんでしまい、思わず言葉を切ってしまった。
 ……どうしてだろう。別段親しくもないことを認めようとしただけなのに、こんなに胸が痛むのは。何の縁もゆかりもないことは事実であるはずなのに、それをこの口から吐き出すことに一抹の痛みと苦しみがある。
 まるで、本当は彼女と強い絆で結ばれていたかのような――

「司くん……? 体調が悪いなら、今日はもうお開きにしようか?」

 案じるような類の視線。せっかく合間を縫って相談の時間をつくったのに、こちらの都合でその機会をふいにするわけにはいかない。
 視線の真意も、この胸に巣食うもやもやの意味もわからないまま、すべてを振り払うように首を振る。大丈夫だ、と付け加えれば、三人は眉をひそめながらもこれ以上追求することはなかった。


エイプリルフールネタでした。交わらないセカイ線
2022/04/01


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