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傷つけたいわけじゃない。
傷つけてることを知らなかったわけじゃない。
でも、知らないふりをしていた。
笑ってる★に甘えていた。
泣いた★を見て、胸にナイフが突き刺さったみたいだった。
「エース隊長?」
「あ、わりぃ……あのさ」
いざとなるとなんて話したらいいかわからない。
★に話があると呼んだのはけじめをつけるため。
ずっと前からわかってた。
でも、怖くてできなかった。
「俺は、自分のためだけに生きてきた。この世に名声を残すために無茶だってした」
生き急いでいた俺に手を差し伸べてくれた親父。
「でも親父に会って、海賊王にしてェってそれだけのために生きてきた」
初めて少しゆっくり歩けた。
「それ以外頭にねェんだ」
そう言うと★の顔が少し歪んだ。
「それでいいと思ってた」
★は頭を上げて笑った。
胸が痛む。
そうじゃない、そうじゃなくて……
「俺は人を愛するなんて資格はねェし、そういうのできねェって……」
ギュッと拳を握る。
見たこともねェ、その顔が浮かぶ。
鬼の顔が浮かんで消えねェ。
「★は、大切なやつだと思ってる」
鬼の子の俺を、包んでくれた。
愛してくれてたんだと思う。
それを見ないふりして、いつしかそれが心地よくて、でも俺は……
「女と寝るのは欲を処理するためだ。そういう風にしか生きてきてねェ」
誰かを大切に想っても、それを表現することに関してはできてねェと思う。
「だから、俺はお前を傷つけた」
素直に向かってくる想いを俺はずっと拒否していた。
それを受け入れることが、自分でもどうしてもできなかったし
どうしたらいいかもわからなかった。
だから、俺は何度も何度も、遠ざけようとしたし確かめようとした。
でも、大切で、大切すぎて、触れることもできなかった宝が曇っていくようで
傷つけるたびに後悔したし辛かった。
でも、自分なんかのために★を犠牲にすることができなかった。
「傷つけたかったわけじゃねェ」
「わかってます」
大丈夫ですから、そう無理やり笑う★を見て、俺はギューっと心臓がつぶされるような感覚になった。
「俺なんか……なんで俺なんだよ。お前だったらもっと……」
「ごめんなさい」
「え?」
「ごめんなさい、好きになんかなったりして。エース隊長が笑ってくれてたらいいんです。いいんです……だから……」
こんな純粋に慕ってくれる奴を俺はどうしたらいいかわかんなかった。
壊しそうで、怖かった。
「少しずつ……でもいいか?」
「え……?」
「俺はさ、お前が持ってるような優しい心もねェし、誰かを好きになるとかわかんねェんだ」
でも、離したくないと思った。
このまま傷つけるのは嫌だと思った。
無理して笑わないで欲しいと思った。
そばに居てほしいと、そう心から思った。
「だから、少しずつ……一緒に歩いてくれねェか?」
★と一緒なら、恋も、愛もわかるんじゃないかと思った。
こんな俺でも一緒に進んで行ってくれる気がした。
驚いた顔をした★を見て俺は笑った。
一緒に笑った★は今まで見てきた中で一番、綺麗な笑顔をしていた。
手を握ってくれた★は
「ゆっくりでいいです。エース隊長が笑ってくれるだけでいいです。それに私が必要なら……嬉しいです」
照れたように笑った★にキスをして
そして胸の中にじんわりと広がるあったかい気持ちに俺は幸せだと思った。
★の優しすぎる愛に、俺はもう溺れている。
エース隊長の、傷つけまいとする優しすぎる愛に溺れてみよう。
手を取って、一緒に歩いていく。
幸せだと、そう言って笑えるように。
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