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会わないようにしている、というわけではないのに

エース隊長とは全然会わない日が続いた。

所詮こんなもんだ、しがない雑用と隊長なんて。

なんの面白味もない自分。

これと言った特技もなく、

いつしか流されるのが当たり前になっていた。

自分があーしたい、こーしたいなんて言えるのは自分に自信がある人が出来る事で

こんな私が夢を持つなんておこがましい。

『俺の船に乗りたいだァ?』

そんな私が唯一、ただ一回勇気を出して自己主張したのがこの船に乗る時。

ダメ元だった。

でもどうしても見てみたかった、いろんな海を。

広い世界を。

自分じゃ何もできないから、世界一の男ならってそう甘えてたのかもしれない。

でも……

手を差し伸べてくれたその恩を一生忘れない。

夢を……見てもいいのかもしれない。

だけど私はなんの役にもたたない、前と対して変わりもない。

大きな夢はこの船に乗っていればきっと叶う。

自分は何もしてないのに。

ふと、うつむいていた自分に気づき前を見る。

大きな海は変わらない。

太陽のように笑う、その人を見て、心躍らせても……手も伸ばせない。

エース隊長が笑ってた。

ナースと一緒に笑ってる。

一瞬こっちを見る。

見てはいけないものを見てしまったようで、私は目をそらした。

振り向かない。

私は早足で歩きだす。

夢なんかみない。

私は、ただ……

「★!」

名前を呼ばれて思わず立ち止まる。

いけない、

そう思って歩こうとすると誰かに腕を掴まれた。

誰かに、なんて嘘だ。

わかってる……

「★、逃げんなよ」

「エース……隊長」

振り返らない。

いや、振り返れない。

怖い、怖い……

「★、この前の夜の事……」

「………大丈夫です」

「え?」

「気にしてませんから」

「いや……」

「酔っぱらってましたもんね、あんなの酔っぱらいの戯れです」

「ち、ちが……」

拳をギュッと握った。

「傷ついたりなんかしませんから。大丈夫です。気にせず……!」

そう言った私の背後から大きなものが覆いかぶさった。

「聞け!」

ドクン、と音が鳴った。

「違ェ、全然違ェ!俺は……お前の事………!!」

「からかうのもいい加減にしてください!」

私は今まで出したこともない力でエース隊長を振り払った。

「エース隊長と私とじゃ何もかもが違う!!そんなの……おかしいです」

私はそう言って走った。

エース隊長が私の事好きだなんてあるはずがない。

どうやって私を好きになるのかがわからない。

一瞬見えたエース隊長の顔がすごく悲しそうで、それを私は振り払った。

私とエース隊長じゃ、うまくいきっこない。

ずっと、夢見ていた光景は甘くはなかった。

夢は夢で、現実になってしまったら

怖くて、怖くて……

逃げ出してしまうほどに痛くて……

本当は、自分が主人公の物語を夢見ていた。

でも、脇役でずっと何を傷つくこともなく

踏み出すこともなく

逃げてきたのは自分なんだと

私はその時、自分のずるさに泣いて泣いて、

それでも動こうとしない自分に腹が立った。

だって………しょうがないじゃない。


私は、


私なんだから。








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