臆病者の恋愛ごっこ(3/4)
「エース!?」
ずんずん、という効果音がつきそうな様子でエースが自分に近づいてくる。
そりゃあもうすごい剣幕で。
★は後ずさるも後ろは柵だしその後ろは海だ。
「てめェ、昨日の夜……なにやってたか正直に言えよ」
「き、昨日?」
普通に、サッチと夜食を食べて……
あ、少し飲んでから寝たな。
途中でちょっと寝ちゃって迷惑をかけたけど。
「サッチが言ってたぜ?寝顔可愛かったってよ」
久々に自分を可愛い、と言われたので★は少し照れてしまった。
それが、エースの苛立ちを増長させる。
「寝顔、見せるような事してたんだよな?一緒に夜過ごしたんだもんな?」
「ちょっ、なんかいろいろ誤解してる!」
「誤解だ?昨夜は遅くまで無理させちまったから今日は寝不足かもな、ってサッチが心配してたぜ?」
ハッ、と鼻で笑うエース。
サッチが何か企んでるのはわかった。
「昨夜は十番隊が遅くに遠征から帰ってきたから夜食作って、それで一仕事終えたからサッチと一緒に飲んでて……疲れてたから寝ちゃっただけよ」
「どうだかな」
こんなに詳しく説明しているのに全く聞く耳を持たないエース。
「サッチがどんなこと言ったかわかんないけど、私は何もしてない」
★はエースから逃げるようにその横を通り過ぎた。
「待てよ」
掴まれた手首が痛い。
「ちょ、エース!」
「なに?サッチんとこ行くのかよ?」
痛いほど掴まれた手が本気で砕けそうだ。
「離してってば……痛い……」
「本当のこと言ったら離してやるよ」
「だから言ってるじゃない」
「どうせ口裏合わせてんだろ」
本当に痛い。
★はエースの手をなんとか振りほどこうと腕を上下させた。
「ふざけないでよ!口裏合わせるだけいいと思いなさいよ!」
「はぁ!?」
離れない手に苛立つ★はそう、叫んでいた。
「言い訳、してる分にはまだいいでしょ!?開き直って平然と浮気するよりましよ!」
★は思いっきり上に上がった手を振り切った。
「ハァ…ハァ……私は何もしてない。アンタと違って」
手の跡がくっきり残る手首をさすりながら★は言った。
キッと睨みつける★の目にエースは目を大きくして驚く。
あぁ、ダメだ。ダメな気がする。
★はそう思い、その場を立ち去ろうとした。
「待てよ、★!」
今度は手首じゃなく腕を掴まれる。
痛いくらい、の力ではない。
「離して」
「……無理だ」
「離してよ」
「いや……」
暴れる★をエースは腕の中に引き寄せた。
やっぱり、ダメだ……
★はエースの腕の中で大声で泣いた。
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