優しい時間
「いい加減マルコも諦めりゃいいのにな」
エースが少しむくれてそう言った。
「毎年のことだ。照れ屋なのよ、うちの一番隊隊長様は」
サッチが苦笑いを浮かべてそう言った。
「毎年だだこねてんのか!?あのおっさん」
エースは驚いてそう言うとポカンと口をあけた。
「ほら、さっさと呼んできてよ★」
ハルタがそう言って★を押す。
「ちょっと待ってよ、なんで毎年私?」
背中を押すハルタの手を押しのけようと背中に力をかけて★は言う。
「★の言う事なら聞くからな、マルコは」
イゾウは腕を組みながらさっさとしてくれ、とばかりにいった。
「あー★には甘ェもんな、マルコ」
エースは納得したようにそう言った。
「宴が始まらねェ、さっさと行って来い」
「親父まで……」
親父が行けば一発だと思うんだけど、と★はぼやきながら諦めたように力を抜いた。
ハルタの手がポン、と背中を押す。
気をつけろよーと、呑気なサッチの声が聞こえる。
何に気を付けるんだ。
★はマルコの部屋へ続く道を歩いた。
今日はマルコの誕生日。
毎年家族全員で盛大に祝うのだが主役だと言うのに俺はいいよい、と部屋にこもるマルコ。
照れくさいからといつもだだをこねるがいい加減学習してほしい。
宴はマルコ抜きでは始まらないし、どんな手を使ってでもきっとうちの家族はマルコを部屋から出すだろう。
★はため息をつきながらマルコの部屋のドアをノックした。
「空いてるよい」
「主役がいないと宴が始まりません」
ドアの前で★は言う。
「先にはじめててくれよい」
「無理です」
「別に俺がいなくたっ……」
「船長命令です」
・・・・・・・少しの沈黙の後ドアが開いた。
「祝う歳でもねェだろいよい」
マルコは呆れたような顔をしてそう言った。
「そう言う問題じゃないでしょ。祝いたいって言ってるんだから祝わせてください」
ほら、と★はマルコの手を引く。
「わかった、わかったよい」
「わかればいいです」
「で?」
「へ?」
マルコはジッと★を見つめた。
去年言えと急かされた言葉を思い出す。
「……お誕生日おめでとう、マルコ」
そう★が言うとマルコは見たこともない優しい笑顔を浮かべる。
「プレゼントは?」
「……ない」
★はそう言うとギュッと自分の手を握った。
雰囲気でわかる。
視線が交わる2人の空気が変わる。
「じゃぁ……」
マルコはそう言うと★にキスをした。
「★をもらおうかねい」
★はマルコに手を伸ばして背中をギュッと抱きしめた。
「生まれてきてくれてありがとうマルコ」
一番におめでとうを言ってほしかった。
迎えに来る★にずっと言いたかったことがあった。
欲しいものがあった。
今か今かと主役を待っている家族たちが贈ったマルコへのプレゼント。
それは、★との優しい時間。
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