短編 | ナノ

現実は夢の中(3/4)






「……おい」

ローが★の部屋を訪ねるとそこには小さくうずくまる★の姿があった。

「……泣いたのか」

涙の跡がうっすらまつ毛に光っている。

理解できねェな。

ローはため息を一つ吐いた。

好きだと言われたから付き合うことを承諾した。

一緒に船に乗ってる以上波風はたてたくない。

すぐに向こうから関係を解消してくると思っていた。

それだけのことをしてきた。

決定的なことは島に上陸してから徹底的に行った。

万が一★が船を降りたいと言い出した時にすぐに解放できるように。

「ん……キャプテン」

「起きたか」

「キャプテン……おにぎり」

「……ハッ、寝言かよ」

寝てまでローの事を呼ぶ★。

一緒に航海しようと決めた仲間だ。

使えるし、気に入ってる。

なんでそこまで執着する?

恋人だのなんだのになんの意味がある?

「ペンギン……?」

「何寝ぼけてんだ」

自分をペンギンだと呼ぶ★にローは眉間にしわを寄せた。

「ごめんね、心配かけて。大丈夫だから」

大丈夫、そう、★はペンギンにも言い続けてきたんだろうか?

「何が大丈夫なんだよ」

「だから、その……私なんて隣に居させてもらってるだけで奇跡みたいなもんだし」

「……なんでこだわる。泣くくらいなら別れりゃいいだろ」

★は悲しそうに笑った。

辛いなら別れればいい。

でもそれがどうしてもできなかった。

「受け入れてもらえるなんて思ってもみなかった。私にとってチャンスなの」

「チャンス?」

「恋人になれるなんて思わなかった。だから……中途半端に諦めるわけにはいかない」

涙が溢れている★にローはなにも言えなくなった。

「この機会を私が辛いからって手放したら、絶対後悔する。いくら辛くてもチャンスをもらったんだもん、無駄にしたくない」

「……バカだなお前」

「………そう……だね」

「最低なことしてんだぞ」

そう言ったロー(★はペンギンだと思っている)に★は起き上がって睨みつけた。

「いくらペンギンでも、キャプテンのことそんな風にいうことは許さない」

「……★?」

「………あれ?キャプテン?」

初めてローの顔を見た★は驚いてそう言った。

「あぁ」

「あれ?……酔っぱらっちゃったかな。ハハハ、相当だな、私も……」

ローが床を見ると転がっている酒瓶。

すぐ酔っぱらうくせに酒瓶一本あけやがった。

ローはチッと舌打ちをした。

「おい、寝と……」

「よっぽど、キャプテンのこと、好きなんだなぁ」

「は?」

寝かせようと肩を掴もうとした手が宙に浮いた。

「幻覚が見える……キャプテンが私の部屋に来るはずないのに。ハハハ、重症だ」

「本当だな」

ローは静かにそばにあった椅子に腰かけた。

「ごめんなさい、キャプテン」

「なんで謝る」

「キャプテンが離れたがってるの、わかってるのに……なのに私……」

「……しつこいやろうに捕まった」

そう言ったローは口角を少しあげた。

「本当は、嫉妬してる。すごい汚い感情を向けてる。ごめんなさい、本当に……」

シーツを握りしめて泣く★にローはベットに腰かけて顔を上げさせた。

「どうせ幻だ、好きにしてみたらどうだ?」

ローはそう悪戯をたくらむ悪がきのように笑った。

「……まぼろしでも緊張する」

「よっぽど好きなんだな」

「うん……好き。好き、大好き。他の人なんて見てほしくない。本当は私だけ見て、私に笑いかけて欲しい、触って欲しい」

ぐちゃぐちゃになった顔をローの指がぬぐう。

「それで?」

「ほ、本当は名前で呼んでみたい。あ、あとおにぎり!作ってあげたい。それから……」

「わがままだな」

「ご、ごめんなさい」

シュンとする★にローは喉の奥で笑った。

「呼んでみろよ?」

「え?」

「呼びたいんだろ?名前」

「え、や……緊張する……から」

「幻だろ、お前の夢の中みたいなもんだ」

そう言ったローがひどく優しく見えて★は泣きながら微笑んだ。

「ロ、ロー……」

「あぁ」

「ロー」

「なんだ」

「ロー……ローローロー」

「呼びすぎだ」

名前を呼ぶたびに愛しさが募っていく。

あぁ、キャプテンから自分から離れるなんて絶対に無理だ。

こんなに……

「ロー……好き」

「……あぁ」

「本当はローにも……好きになって欲しいけど」

「……」

「そばにいさせてくれるだけで……」

★はそういうと眠気に勝てずにゆっくりとベットに吸い込まれた。


「……忙しいやつだな」

ローはそう言って笑った。




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