背負うもの(2/2)
ガープと★は無機質なその石と持ち主をなくした彼の所有物の前で手を合わせる。
たむけられた花は枯れ、色が覚めているオレンジが、今もなお時が止まる二人に、時の経過を知らせていた。
「じいちゃん、あの時……私に鍵を渡したでしょ?」
「……そうじゃったかの」
「逃げると思わなかった?それとも……逃がしたかった?」
ガープは俯いてジッと下を見つめていた。
「さぁ……わからん」
ガープはゆっくり前を向き、エースが眠っているところを見る。
逃げて欲しいと、そう願っていたかもしれない。
賭けをしていた。
自分の背中にいる何十人もの部下。
いつの間にか全部背負い込んだその背の正義で身動きがとれなくなった。
★なら、エースを救う事が出来るかもしれないと、そう思っていたのかもしれない。
「逃げてたら、きっとじいちゃんは全部の責任を自分が負うつもりだったんでしょう?」
ガープはそのまま空をジッと見つめていた。
「逃がしてくれるつもりだったんでしょう?」
その道を選ばなかったのはガープにとってよかったのか悪かったのか。
そしてエースにとっても、★にとっても。
「……さぁな」
海賊という道を選んだエースは自分が逃がそうとしてもきっと逃げはしない。
逃がすつもりもなかった。
それが宿命と心に決めていたはずなのに……
「ワシらはエースを救わなかったし、エースは救われなかった。それが事実じゃ」
過去の事を考えていても仕方がない。
己の信念を貫き、孫を見捨てたと言われても仕方がない。
ルフィを止めることができなかたことを公私混同と言われても仕方がない。
それでも、救えなかったエースを悔やんでも悔やみきれない。
それは★も同じ。
「じいちゃん……私が、ずっと…そばにいるね」
「……うるさくてかなわん」
「エースと約束したの」
「……」
ガープは空を睨みつける。
「ジジィをよろしく頼む……って」
もう、空は見えない。
歯を食いしばっても、それはこらえきれない。
「俺たちの分もそばにいてやってくれって。不幸者の俺には恩返しもできなかったって……じぃちゃん……」
堪える必要をなくした涙はとめどなく流れる。
目をギュッとつぶっても涙は流れてくる。
「なんであいつが死なにゃいかん!!老いぼれの命なんぞくれてやるわい!!!何が正義じゃ……!!自分の家族も守れなんだ!!」
★はそっとガープを抱きしめた。
「エースは生きた。じいちゃんのおかげで、生きてみようと思った。ルフィのおかげで生きることに意味を見つけた」
「生きてることで十分じゃった。恩返しというなら、生きて、ただ生きてくれさえいりゃぁ…それで……」
若くして絶えてしまった命。
悔やんでも悔やみきれない。
それを乗り越えていかなければならない、生きている者。
でも確かにあった、命。
ずっと心で生き続ける命。
願わくば、いつか来世で‥‥‥‥‥
今度はもっと自由に、
もっと、ずっと……
正義も、ドクロもない、ただの男と女で会いたい。
ただ、生きて………
「エース!!!!」
「★!!」
「捕まえた!!」
「あー捕まっちまったな。約束、だったもんな」
一緒にいられれば、それでいい。
「早く早く!!じいちゃんとルフィが待ってるよ!!」
「わーったよ!!」
今度はみんな、笑って、生きて……
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