背負うもの(1/2)
背負うもの「ガープ中将、そろそろお時間です」
「そうか……」
ここはインペルダウン。
世界の凶悪犯たちが収容されている場所。
その重々しい雰囲気はなんとも言い難いものがある。
「忘れもんしとったわい。★、取りに行ってこい」
「……ガープ中将」
「聞こえんのか?行け、と言っとる」
★、と呼ばれた海兵はいまだに動くことができない。
「ここにはワシとお前だけじゃ」
「……じいちゃん」
「行け」
背中を押され★は進んだ。
ゆっくりと、拳を握りながら一歩一歩、歩いた。
そして★の足が止まった。
「ハッ、まだ言い足りねぇのかよ、ジジィ……」
うつむいた顔をゆっくりと上げた男は目を見開く。
「……ッ!!★……!!!!」
「火拳のエース、ガープ中将が忘れ物をしたらしい」
手足に枷を付けられている罪人、ポートガス・D・エース。
またの名を火拳のエース。
「知らねェな」
「……そうか」
★は元来た道をまたゆっくり歩く。
一度もエースを見ないまま、無表情のまま歩く。
「★……」
そう呼び止められて★の足は止まった。
「悪かったな、約束……守れなくてよ」
かすれた声でエースは言う。
「元気でな……幸せになれよ。お前は誰よりも幸せになれ」
先程までの雰囲気とは全く違う、優しい声、愛おしいものを見つめる目でエースは言う。
★の表情は段々崩れていく。
無表情から歯を食いしばり目をギュッと瞑り、そして涙に歪んだ。
「……ク…ッ……!!」
堪えきれずに★から出てくる声にエースもまた表情が歪む。
「……嘘つき………!!」
「★………」
「嘘つき!!嘘つき嘘つき!!!!」
泣き叫ぶように★は言う。
「私が必ず捕まえるって言った!!それまで待つって言った!!死なないって言った!!!」
言葉が、溢れてくる。
「★…」
「なんでこんなとこにいんのよ……。なんで!!…なんで!?」
気持ちが溢れてくる。
「……わりぃ、★」
「許さない。絶対許さない!!!!」
「★、許さなくてもいい。だから、★……」
「ヤダ!!絶対ヤダ!!!」
自分でもわけがわからなくなっている★。
顔を覆ってその場にしゃがみこんだ。
「★、聞いてくれ……」
「やだ、聞かない。やだ」
最後のお別れのような気がして、もう会えなくなると突きつけられる気がして★は首を振り続けた。
「なぁ、頼む。★」
「やだ、やだよ……エース」
★はエースの方を向いた。
はじめてエースと目が合う。
「エース……!!!」
涙で何も見えなくなる。
「★!!」
呼ばれたような気がして、★はエースに駆け寄った。
エースも近寄ろうともがく。
引きちぎられれるほど足と手を必死で★に伸ばす。
「エース……エース!!」
「★……ッ!!」
★の体がピタリと止まった。
先ほどガープから預けられた鍵。
この鍵は……。
ポケットからそれを出す。
ガチャリ。
エースの廊の鍵が空いた。
「エー…ス……」
ゆっくりと近づく★。
驚いているエース。
「★……、会いたかっ…た!!」
エースの目にも涙がにじむ。
「エース……!!」
エースの胸に飛び込む★。
ガチャンと音を立てて腕の枷が動く。
抱きしめることもできねェのか……
エースは自分が置かれているこの状況に今更ながらひどく後悔をした。
ガチャリ。
そしてまた外される手の枷。
「★、お前……」
「今だけ……」
エースは★を思い切り抱きしめた。
そして口づけをする。
夢中で、互いを求め合う。
「エース」
エースが★の服に手をかけた瞬間、★はエースから離れた。
「★……」
「もう、行かなきゃ……」
永遠にこの時が続けばいいと思っていた。
でも、時は過ぎ去ってしまう。
お互いに、背負う物が多すぎた。
背負う物が違いすぎた。
背中に掲げるは“ドクロ”と“正義”
それを脱ぎ捨ててしまえばただの男と女になる。
「……逃げないんだ」
おとなしく手を差し出すエース。
その枷に鍵をかける。
「本当はお前をさらって逃げてェ」
「……私も、エースをここから連れ出したい」
自由になんてなれなかった。
子供のころ描いていた自由。
でも、大切なものが増えるたびに自分を縛る枷が増える。
本当にたいせつなものは一つしか守れない事を知る。
「ジジィは優秀な部下を持って幸せだな」
「孫2人海賊になってるんだからそうも言えないでしょ」
「でもお前が立派な海兵になってる」
「……じいちゃん、一人ぼっちになっちゃうじゃない」
走馬灯のように小さいころの思い出が駆け巡る。
エースは逃げることを選ばなかった。
★もエースと共に歩む未来を選ばなかった。
それは、それぞれの道が違うことをそれぞれが覚悟の上海に出たから。
そして、家族を守るため。
「★……」
「私は幸せになんかならない」
「……★」
「この道を選んだ時から、そう決まってる」
海賊になりエースと別々の道を行くと決めた日から。
「お前なら幸せになれる。信じてる」
「……幸せだよ、誰が幸せじゃないって言っても。私は」
これでいい。
大切なものは2つ選べない。
そういう宿命ならば、2人が離れても例えエースがいなくなっても。
想う心がそばにあれば──
prev /
next