短編 | ナノ

熱(5/6)




「エース?」

「気持ちよさそうに寝てたからよ」

起こしちゃわりぃと思って、とベットに腰掛けていたエースは立ち上がった。

「・・・」

何しに来たの?なんて聞けない。

終わりにしようって?

この後に及んでまだその言葉を聞けない私は臆病者だ。

私はエースに背を向けて体を丸めた。

自分を守るように。

「★」

呼ばないで、そんな風に呼ばないでよ。

今はエースの声も、姿も、存在ですら…消えてしまえと願うほど……苦しい。

なのにエースは私の方へ近寄ってくる。

いつものように強引に布団を引き剥がされる。

「…や」

必死で出せた声がこれだ。

「なんでだよ」

手馴れた様子で私の体を触るエース。

「やだ…って言ってる」

「やだっつってもやめねーって」

知ってるだろ、と後ろから抱きしめてくるエースに初めて本気の抵抗をした。

「なっ、なんなんだよお前!」

「もう嫌なの!!離して」

「離さねぇ」

わけがわからない。

最後に一回くらい抱きたいって?

ばかにしている。

それとも振られた?

体の相性は悪かった?

それでも抱かれないよりはいいと、今までの私はそう思ったかもしれない。

でも、もうそんな覚悟さえなくなっていた。

本当は気づいていた。

体を重ねるたびに大きくなっていく想い。

独り占めしたいと思う愛しさが溢れて、どうしようもなく切なくて

嫉妬で心が黒く汚れていく、そんな自分がどうしようもなかった。

それでも、終わりにしようなんて言葉が言えない。

小さな可能性にかけている自分が憎い。

「……泣いてんのか?」

自分が泣いているのに今気づいた。

「泣くほど…嫌なのか?」

違う、なのに声がでない。

好きだと言ったら?

あなたは…私を見ることすらしなくなってしまうでしょう?

エースの腕が体から離れた。

「…悪かった、もうこねェ」

嫌だ、そんなの嫌だ…!!

「でもよ、これだけは貰ってくんねェ?捨ててもいいからよ。お前のために買ったもんだから」

「・・・?」

コトン、と何かが置かれた音がする。

「だせェよな。今日こそは俺のモンにするつもりだったんだ」

この人は何を言ってるんだろう?

だって、エースのものになるのはあの子でしょ?

「俺の事見なくなってたのはわかってた…でもよ、いやなんでもねェ」

思考回路がついていかない。

夢でも見てるみたいだ。

「一人で舞い上がってたみてェ。本当に悪かった」

涙があたたかくなって頬を伝った。


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