短編 | ナノ

幸せのいるところ(6/7)


それから、私とエースは距離を置き始めた。

本格的に私とエースが別れてマルコ隊長と付き合い始めたと噂になった。

そりゃ、私一番隊の隊員ですし、書類押し付け・・任されるから一緒にいる時間は長いですけど何も変わってない。

それだけ私とエースは一緒にいた、という事になる。

エースにはなるべく会わないようにしてきたけどどうしても好きな人は目に入るもので・・

あの子の隣で笑ってるエースを見てるとどうしても辛くなってしまう。

自分で決めたのに。

エースの隣はあの子。

いつ見ても。

泣きそうになるのを堪えて海を眺めた。


「よう」

一番会いたくて会いたくない人の声がした。

「エース・・」

「マルコとはうまくやってるか?」

「・・・」

冗談だよ、とエースは笑った。

「なんか久しぶりだな」

「一週間でしょ」

そうだったか?

とエースが言ったきり無言になった。

「エースは?・・その・・うまくいってるの?」

本当は聞きたくなかった。

でも気になっているのは確かで、無言に耐えられず思わず聞いてしまった。

ギクシャクとした空気が流れる。

こんなのは初めてだった。

「あぁ・・まぁ・・・な」

「そっか・・」

よかったね、とはまだ言えないことに苦笑いをする。

「なんか、変な感じするよな。お前と一緒にいないってだけで」

どうしようもなく気持ちが跳ね上がる。

嬉しい、と思ってしまう。

「そぉ?」

「あぁ、なんか変だ・・。なぁ・・やっぱり・・」

エースが言いかけた言葉を私は遮った。

「大丈夫だよ、きっと二人でいるのに慣れただけ・・・そのうち・・慣れる・・」

そう、きっと私のいない日々に慣れていくんだ。

そして隣にはあの子。

ただ変わるだけ。

「そう・・なのか」

「そうだよ」

その姿を見ていたくなくて私は離れるのを選んだ。

自分で決めたくせに、まだ覚悟ができていない。

「お前はいいのか?」

「え?」

「俺の勝手で離れちまうんだしよ・・お前のこと俺は大切に思ってるし」

どこまで律儀なんだろうか。

私は苦笑いをした。

途端に嬉しくなった。

本当に“友達”として大切にしてくれてるんだと。

そしたら、今までのがバカバカしくなった。

あぁ、やっぱり私はこいつの笑顔が見たい。

「私はね、エースの幸せが一番!」

最高の笑顔で言ってやった。

「あんたが幸せで笑ってたらいーよ。だから、頑張れ」

笑えてたんだろうか?

まだ心の大部分を占めている感情を隠しきれなくなってエースから背を向けた。

「・・エース?」

「あ」

かっこよく去ろうとしたらエースが私の腕を掴んでいた。



「エース?」

「いや・・わりぃ・・」

「いいけど・・」

変な緊張感が漂う。

だってエース、腕、離してくれない。

妙に真剣に考え込んでる。

「お前・・どっか行かねぇよな?」

「え?」

「なんか・・離したらダメな気ぃすんだよ」

「誤解されるよ?なんかあったら言いに来ればいいじゃん。相談なら乗るし、それに同じ船の上にいるんだから」

頑張るよ、友達として・・

決めたんだから。たった今。

「わりぃ」

「いーえ、じゃぁね」

「また!な!!」

「はいはい」

子供みたいだ。

人を愛すること、愛されること、信用すること

不器用すぎて笑えてしまう。

そんなエースを支えたいと思った・・。

本当は・・隣で。

一番近くで。

たった一人の大切な人になりたいと思っていた。

部屋に帰ったら涙が溢れて止まらなかった。

机に突っ伏して泣いた。


私は矛盾している。

見守りたいと思う。

でも独り占めしたいとも思う。

一人の人として大切で、男として特別で。

私の好きは自分でも知らないうちにどんどん膨れ上がっていてこんなにも愛しい気持ちが溢れていた。

一緒にいる時間が穏やかすぎて気づかなかった。

どこかでずっとこんな風に過ごせると思ってた。

自分でもビックリするくらい・・エース、あなたが好きです。

そう思った途端、また涙が溢れて気づけば声に出して泣いていた。



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