短編 | ナノ

女、男(4/8)




「座ってろ」

ベンチを見つけてようやく私は降ろされた。

「え?」

「さっき来る時大きな遊郭あったろ。お前連れてったら怪しまれるから聞いてくる。だから休んでろ」

エースはそう言うと自分のシャツを少し切って渡してきた。

「靴擦れ。巻いたらちょっとはいーだろ」

「あ・・りがと」

「おう」

なんだか照れくさい。

思いっきり男と女だ。

任務だとわかっているのに大切にされてる気がしてくる。

ずるいなエースは・・。

その背中をずっと見ていた。

今は隠れている仲間の印。今日だけは・・

「やっと一人になったんだー!」

「さっきの男彼氏?」

一人になった途端知らない男が二人絡んできた。

「あなたたちここの人?見かけないけど・・」

何か情報を聞き出せるかもしれないと声をかけた。

「そうだよーお姉さんここの人じゃないの?」

「来たばっかりなのよ、ねぇ聞きたいことがあるんだけど」

「いーよいーよー!じゃあゆっくり話せるところいこっかー?」

すぐに宿へと連れ込みたがる二人をなんとか引き伸ばし情報を聞き出していく。

まいった、しつこい。

「じゃぁここらへんで行きますか」

「やっ」

しびれを切らした一人に腕を取られて立ち上がらせられる。

「つーかまえたーいこっ!」

もう一人にがっちり腰を掴まれた。

「おい、連れに何か用か」

後ろから恐ろしく低い声がした。

「はぁ?」

後ろを振り向いた私たちは絶句した。

鬼だ、この顔は・・鬼だ。

「俺の女に手ぇ出すってのかよ」

ポキポキポキと指を鳴らすエースに男たちは一目散に逃げていった。

逃げたい、私も、なぜか。

「何やってんだよてめーは!」

「いや・・」

「今は任務中だ!男捕まえんなら後にしろよ」

冷たく言い放たれた。

さっき俺の女と言われてキュンとした私がアホみたいだ。

「あーいう奴がタイプなんだなお前」

「別にそんなんじゃ・・」

「邪魔してわるかったな」

不機嫌そうに顔をそらすエース。

「さっさと終わらせていきゃぁいいだろ。行くぞ」

「ちょっと待ってってば!!」

私はエースの腕を掴んだ。

でも思いっきり振りほどかれた。

「なんなのよ!そんなに嫌なら一人で行けば!?適当に誰か捕まえて聞き出したほうがまだましよ!」

ちょっと自惚れたのがいけなかった。

期待したのがいけなかった。

そこから突き落とされるのは想像以上に辛い。

「てめぇ・・ちょっと着飾ったくらいで調子に乗んなよ!何が適当に捕まえてだ!」

「短いスカート履いて谷間でも見せて甘えてれば男に情報聞くくらい簡単なのよ!私一人で行く!」

「・・てめぇ!」

「私を娼婦(おんな)だと思ってる奴なんかいっぱいいるんだから!」

エースはそうは見えないかもしれないけど、女の武器を使えるんだ私だって。

私だって女だ。

エースから背を向けた。

「ここら辺仕切ってる奴が経営してるバーがこの奥にあるって!そこに行けば何かわかるかもだってさ」

くるっとエースの方を向いてさっきの男たちから聞いた話を伝える。一応任務ですからね!

「大きな宿は3つ。だいたいのゴロツキがいる宿は2つ。バカにしないで」

私はそう言うとエースを睨みつけてその場から去った。




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