短編 | ナノ

君の隣で(2/9)


「お前かっこいーよなぁ」

「は?」

「お前が男なら惚れてたね」

「いやいやいや・・」

気色悪いからと心底嫌そうな顔をして見せる。

女に生まれたからいけないのか、私は。

男に生まれてたら好きになってくれたのか。

「はー・・俺あいつの前ではかっこつけちゃうんだよな」

「へー」

「いつでもかっこいい俺でいたいっつーの?だから別れたいって言われた時も幸せになれよ、とか」

「バカだねー」

「だよなー・・。エースくんの本当の心が見えないのって。どんだけ大事にしてたと思ってんだ」

「はーん」

「伝わってなかったのかなー?俺相当頑張ったんだけどなー」

誕生日のプレゼントも必死でバイトして買ってた。

私も付き合わされたけど。

「本当の俺ってなんだよ」

「こんなんじゃない?」

「え?」

「かっこつけてないこんなエースなんじゃない?」

「こんな姿好きな女に見せれるか!」

あ、ヤバイ。

これはキタ。

ズキンと心が痛む。

「こないだもおんなじような事で振られたっけなー」

ハハハと乾いた笑いを浮かべるエース。

心底憎い。

「だからなんでも話してたのにな。なんでだろ・・」

「好きな人の弱い部分を見れるって・・優越感だよ」

ハッとした。

つい口に出してしまった。

彼女たちの知らないヘタレなエースを見れることが私にとって唯一の特権だったのに。

それに気づかないでと今まで言わなかったのに。

弱いエース、本当のエースは見せたくない。

彼女たちならきっとそんなエースを見たらもっと好きになる。

そして弱い部分を見せれる彼女ができたら・・・

エースはきっと私なんかいらなくなる。

「・・恋愛もまともにしたことねーくせに」

ボソッと言ったエースの言葉が私にはやけに深く突き刺さった。

「・・あるよ」

「え?」

「恋愛」

「はっ?」

「したことある。っていうか今もしてる」

「はっ!?なっ!!マジで!」

俺聞いてねぇから!!と焦るエース。

当たり前じゃん。言ってないもん・・

言えないもん。

「誰だよ!好きなやつ!!」

「教えない」

「ハッ!?俺の恋バナ全部知ってるくせにお前だけ言わないとかナシだろ!!」

「あんたが勝手に言ってたんじゃん。別に聞きたくて聞いたわけじゃないし」

勝手に私の心傷つけてただけじゃん。

「★ってさ・・案外薄情なんだな」

「は?」

「俺だけかよ、そんな薄っぺらい関係だったんだな」

その言葉で私の何かが切れた。

「正直、困ってたんだ。勘違いされる。こんな夜遅くに男あげて、学校でもくっついてきて」

「なっ!?」

「あんたの彼女達もさ、私と一緒にいるエース見て耐えられなかったんじゃない?こんな風にギャァギャァ騒いでないんでしょ?彼女の前では」

言葉が止まらない。

あぁ、もうおしまいだ。

「エース・・」

「なんだよ」

エースが静かだ。怒ってる。本気で。低い声に私は震えた。

「幼馴染でも結局、本人以外は男と女なんだよ」

言ってて腹が立つ。

エースは私を女として見てないから彼女が居ても平気で私と一緒に居た。

それが当たり前だった。

彼女達がそれに我慢できなくなると知ってても・・

こんな風にエースが傷つくとわかってても、私はそれをやめることができなかった。

好き・・だから。

ずっと、一緒に居たかった。

だから気持ちも言えずにいたのに。

私たちの関係を壊すのは・・

好きだと言う一言じゃなくて・・

「もうやめたほうがいい。一緒に居るの」

好きという気持ちが言えない憶病な拒絶の言葉。

「・・そーかよ」

エースが部屋からでていく。

「悪かったな、今まで」

終わってしまった。

エースに彼女ができて、それでもしがみついてた関係なのに・・

どれだけ傷ついても一緒に居たいから隠してきた想いなのに・・。

想いを伝えることすらできず、傷つけて終わった。

エースが玄関を出て行ったあと。

止めていた何かが壊れて、私は泣いた。

どうしていいかわからないくらい泣いた。




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