俺はグランドラインのとある島にある居酒屋のしがない店主である。
それ以外、特筆することがない。と、言いたいところだが、最近やっかいな海賊に付き纏われて困っている。酒を飲んで暴れたり無駄に絡んでくる輩は今までに腐るほど相手にしてきたが、好意を寄せられるのは初めてのケースでどうすればいいのか。
この島のログが溜まるのは1ヶ月。早く諦めてくれという俺の願いは虚しく、毎日のように訪ねてくる海賊に俺はもうお手上げ状態だ。噂をすれば何とやら、大きな音を立てて開かれた扉に目を向ければ、嫌というほど目にしている男がいた。

「ナマエ!!!メシ!!!あと俺の船に乗れよ!」
「俺は飯じゃないし、船にも乗らない」
勝手知ったる顔でカウンターを陣取る姿は、もう見慣れ過ぎてため息が溢れる。麦わら帽子がトレードマークの海賊船の船長、モンキー・D・ルフィ。その首に何億も賞金がかけられてる大物が、こんな何の取り柄もない三十路の男を気に入る訳がわからない。俺がコイツに惚れられるようなことをした覚えもないし、自分で言ってて悲しいが誰かの胃を掴むほど料理が上手いわけでもない。本当にコイツが理解できないし、なんとなく無碍にできない中途半端な自分がイヤになる。
「えー!!なんでだよ!楽しいぞ!」
「行かねえよ。はぁ…といういか、お前のところにもコックいるのに、何でわざわざ美味くもない俺の飯を食いに来るんだ」
「確かにナマエの料理はそんなに美味くねェ!」
「ぶん殴るぞ」
「イッデェ!!!!!もう殴ってんじゃねェか!先に言い出したのはナマエだろ!?」
「だとしても面と向かって言われると腹が立つ」
「リフジンだ!!」
「はは、人生そんなもんだ」
キーッ!!!と猿みたいに騒ぐルフィを尻目に、店の準備のついでに、仕方なく、軽食をつくりにかかる。不思議と大人しくなったルフィに少し視線をやれば、唇を尖らせて拗ねていた。
「なにを拗ねてんだ」
「…ナマエの料理は、ウメェとか、そういうのじゃねェんだよ」
「?そういうの以外に何があるんだよ」
「なんか、こう、この辺があったかくなるんだよ」
胸元のシャツをギュッと握るルフィの顔を見て、慌てて料理に視線を戻した。本当に、そういう意味で俺のことが好きなのか、自覚してるのかわからないが、こうも分かりやすくされると、上手く大人の対応ができない。まだ20にもなってないガキに、だんだん気付きたくない感情が見え隠れしている。ダメだ、頭を振ってどうにか正気を取り戻す。フォークとナイフで遊ぶルフィを注意しつつ、こっそりため息をついた。ログが溜まるまであと一週間。それまでの我慢だ。

次の日、サイボーグを連れてやってきた。年も近いおかげか話も合うし面白いやつで楽しかった。俺の気分は上がったが、ルフィは違うようでまた拗ねていた。カウンターで駄々をこねるルフィに、気を使って店を出るフランキーにまた来いよと声をかけたら、もっと騒ぎ出したルフィにお手上げ。「おれには言ってくれたことねえ!」ってお前は言わなくてもまた来るだろ…。

次の日、ガイコツとタヌキを連れてきた。こいつの仲間、個性が強すぎないか?驚きすぎて二度見した。音楽家のガイコツの歌に合わせて、ルフィとタヌキ…トナカイが踊っていた。楽しい奴らだが他の店でやってくれるか?帰り際、なかなか出ていこうとしないルフィに仕方なく声をかける。「また来い」「おう!また来る!」笑顔で宣言するな。

次の日、金髪の軟派男を連れてやってきた。「ルフィの胃袋を掴んだ料理が食ってみてェな」とニヤニヤしながら言ってきやがった。特別なもんはなんも入ってないぞ。というかお宅の船長が勝手に騒いでるだけだ。と返すも「いいじゃねえか」とニヤニヤ。まぁ別にいいかと思ってたら、なぜか怒りだすルフィ。「おれしか食っちゃダメなんだ!」ンなわけねえだろ。ニヤニヤするなグルグル眉毛が!「…また来い」「また来る!!」

次の日、ルフィが美女2人を連れてやってきた。なんだ、そういう相手は居るんじゃねえかと、安心したのも束の間。いつものラブコール。本当になんなんだお前は。おまけに女二人はニヤニヤしながら探りを入れてくるし、ルフィはなぜか拗ねるし。本当に疲れた日だった。「………また、な」「明日も来るぞ!!!」

次の日、長っ鼻の男を連れてきた。8千人の部下がいるらしい。凄いな、と褒めたら調子良く武勇伝を語り出した。話が上手いやつだ。聞いていて面白いし、弄りがいがある。おい、ルフィ。拗ねて俺の右手で遊ぶんじゃない。というか拗ねるならなんで連れてくるんだ…。「明日も来るからな!」「はいはいまたな」「また!!!!」

次の日、緑頭の男を連れてきた。興味なさそうに酒を要求してきた。これくらいの客がちょうどいい。ほとんど会話することなく、店を出ようとする男が一言。「諦めろ」……俺じゃなくてお宅の船長に言ってくれ。「…明日!…また来るからな!」「あぁ、また」「………」やめろ、そんな顔で俺を見るな。


とうとうこの日がやってきた。長い1ヶ月だった。ログが溜まるのは今日の正午。残り時間は後2時間。また来ると言ったルフィはやってこない。…まぁ、あれだけやって無理なら流石に諦めるだろ。この気持ちだって、気の迷いだと諦めればいい。

一定のリズムで刻む秒針の音を聞いて、終わりを待つ。


あと、1時間半。
早く、望んでいなかったはずなのに、どうして。


あと、1時間。
認めなくないのに、どこかで扉が開け放たれる音を望んでいる俺がいる。


あと、30分。


静かに軋む木の音、これからの俺の未来を託す男を両腕で掻き抱いた。

escape

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