澄み渡る青空の下で程よい追い風を受け、サニー号は進路をゆっくりと進んでいく。
安定した島の気候に入ったのか、ようやく訪れた絶好の航海日和を、みな思い思いに過ごして羽を伸ばしていた。
船べりに背を預け本を読んでいたナマエは、遠くから自分を呼ぶルフィの声が聞こえてきてため息をついた。もう少し読み進めたかったが、お預けのようだ。本を閉じルフィの声に応じれば、甲板の向こうから笑顔のルフィが現れた。瞬間、ルフィが腕を伸ばし勢いよく飛びついてきた。

「ナマエ!!」
「ぐっ、…逃げねえからそんなに勢いつけんなって、いっつも言ってるだろ」
「にししっ、悪りぃ!」
「…たっく、悪いと思ってねえだろ」

ぐりぐりと肩口に頭を押し付けてくるルフィを撫でてやると、抱きついてくる腕がまた強くなった。

「で?今日はどうしたんだ」
「今日はな!」

顔を上げ楽しそうに話し出すルフィに相槌を打ちながら、ふと昔のことを思い出した。


ルフィと初めて出会ったのは、俺が別の船に乗っていた頃。まだ海賊になったばかりのルフィを助けてやった時だ。
同じ海賊だが船が違えば敵だ。困っていようが関係ないと普段なら無視するんだが、何故かその時は見過ごせなかった。人助なんて性に合わないことをしたのはこれが初めてで、自分がよくわからなかった。まぁ今思えば、助けて良かったと思うが、礼を言いながら器用に腹を鳴らすルフィに飯を奢ってやったのだけは間違いだった。金は無くなったし、前の船長と会計士にこっぴどく怒られたからな。

二度目は、俺が前の船を降りた頃だったか。色々あってこれからどうするか迷ってた時だったな。
島を適当に散策してたらルフィとばったり再会して、たった一度助けて飯を奢っただけの俺に物凄い懐いてて驚いた。特にすることもないし、金も腐るほどあるからまた飯を奢ってやった。何が嬉しいのか飯を食いながら一生懸命話しかけてくるルフィに、なんとなくこいつになら命を賭けてもいいな、なんて思った。ダメ元で仲間にしてくれと頼んでみたら、全力で肯定されて思いっきり抱きつかれ、ひどく身体を打ちつけたのはいい思い出だ。たぶん。まぁ、ルフィの底抜けの明るさがあの時の俺を救ってくれたんだ。


それからいろんな事件に巻き込まれつつ、いい仲間も増えて今日までやってきた。ルフィのそばは面倒事ばかりで苦労するが、それでも船に乗って後悔したことなんて一度もない。こいつにはそれだけ人を惹きつける何かがあるんだと思う。まぁ、一つだけ不満はあるがな。

「ナマエ!ちゃんと聞いてんのか?」
「ん?あぁ、悪い」
「…何考えてたんだ」
「お前のことだよ」
「!ならいい!次はちゃんと聞けよ!」
「はいよ」

本当に何がいいのか、俺に異様に懐いてるルフィに困っている。さっき言ってた不満はこれだ。こうやって俺の胡座の上を占領するのも、抱きつかれるのも今に始まったことじゃないし、俺も弟のようで可愛くて甘やかしてしまうんだが、そろそろ誤魔化しきれないというか、なんというか。俺の一言で一喜一憂するし、嫉妬のようなものまでされる。これって、そういうことだろ?ルフィが疎くて無自覚なのは仕方ないが、弟のように思ってた感情が少しずつ変わってきてることに気づいてしまったんだよ。

「な?すげぇだろ!?」
「あぁ、すげえな」
「ナマエにも見せてやりたかった!」
「また今度、見せてくれよ」
「おう!」

ルフィの頭をぐしゃぐしゃに撫でてやれば、もっと笑顔になって頭を押し付けてくる。俺に見せる顔は他とは少し違っていて、本当にバカな子ほど可愛いとはよく言ったもんだな。ルフィが自覚するまで、何年経つだろうか。まぁ何年でもいい。

「待ってるよ」
「?おう!楽しみにしてろよ!」

それまでこの甘くて曖昧な関係を続けていこうと思う。この場所が他の誰かに取られないようにしながら。

「ん、そろそろ飯の時間だな。行くぞ」
「腹減ったー!!」
「はは、飯に負けそうだな」
「?なんか言ったか?」
「なんでもねーよ」

確かな曖昧

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