恋はいつでもハリケーン。
兄弟の誰かがそう言って騒いでいたのを覚えている。確か、久しぶりに寄った島で惚れた女ができたとかなんとか。生憎そういう類の話に興味がなかったので話半分に聞いていたが、今はきちんと聞いていればよかったと心から思う。そうすれば、この腹の底から心の臓までずぐずぐと疼くこの痛みに名前をつけられたかもしれない。


俺より少し後に入ってきたマルコが、俺はどうも苦手だった。別に、嫌いってわけじゃない。家族だ、話もするし、冗談だって言い合える。面倒見もいいし、とにかくいい奴だ。と、わかっていても、ほんの少し拒絶を映している瞳が気に入らなかった。戦闘の時だって、そうだ。先陣切って敵船に突っ込むマルコを兄弟は負けてられないと追いかけたが、俺には死にたがってるようにしか見えなかった。それしか求められていないと、それしか求めていないだろうと雄弁に語る背中に反吐が出そうだった。
それで、いつだったか。マルコ本人に俺のことが嫌いかどうか尋ねられたんだ。それで俺は素直に嫌いだと答えた。お前の戦い方が。そんなに俺は、俺たち家族はお前の背中を預けるのに頼りないのか。お前のちっぽけな命に守られるほどヤワじゃない、お前のデケエ命を守れないほどヤワじゃない。大切な家族に死なれると困る。悲しいだろ。そう言うとマルコは顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。初めて見た泣き顔は今までで一番人間らしかった。
それから、ええと。マルコとの距離が近くなった。物理的に。何かにつけて一緒にいたいと言われ困惑したのを覚えている。まぁ歳は近いが、一応は兄だ。甘えてくれるようになった弟を可愛いと思わないわけじゃない。マルコの戦い方は随分と落ち着いたものになった。マルコに名前を呼ばれるのはなぜか心地よかった。
あとは、何だ。そう、マルコに好きだと言われた。俺も好きだと言えば、そうじゃねえと腹を殴られた。どれだけ鍛えていても油断している時の腹は人間の急所だ。痛かった。よくわからないがマルコは俺の言動で機嫌が良くなったり、ぷりぷり怒るようになった。何だか微笑ましくて可愛いと言えば顔を真っ赤にして怒った。だから腹はやめろと前にも言ったのに。サッチにおっさんに可愛いはねえだろと言われた。確かに、それがまずかったのか。綺麗だと言えば頭突きをされた。少しだけ、いやだいぶマルコがわからなくなっていた。


それから、それから。マルコとの思い出ならいとも容易く思い出せるんだ。俺の中で一番可愛がった弟だから。…そうなのか?わからない、わからないんだ。あの日から、突然女が現れた日から、何もかも。
どこにで居そうな平凡な女だった。よく笑って、よく泣いた。それが悪いわけじゃない。だが、俺たちは海賊だ。遊びで家族ごっこをしてるわけじゃねえ。命をかけてこのマークを背負ってる。なのに、女は人に助けられるのが当たり前だと思っているようだった。強くなろうともせず弱いまま家族を心配するだけ。言っちゃあ悪いがただのお荷物だろう。なぁ、違うのか?どうして、そんなに家族に入り込んでるんだ。親父が娘だと、そう言った。兄弟が妹だと、そう言った。マルコが、大事な奴だと、そう、言った。なんだ、何でだ、俺は、お前は、俺のだろう。あぁ、そうか。名前なんてつけることすら、意味がなくなった。


「名前、大丈夫かよい?」
「あぁ、」


そんな目で、そんな顔で、俺の名前を呼ぶんじゃねえ。

世界はこんなにも残酷で美しい

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