「はぁ!?」
青木ルートクリア後、学部は違うが同じ大学に進み二人で貯めたお金で同棲スタート。
楽しく過ごした学生時代を終え社会人になり、お互い励まし合いながら過ごしていく中で、夢が代表取締役である青木はより仕事を優先するようになり、少しずつすれ違い始める。
久しぶりに被った休み、デートをしようと青木が名前を誘うも「せっかくの休みなんだから家でゆっくりしろよ」と言われ、じゃあ一緒に映画でもという誘いすら「悪い、用事があるんだ」と断られる。
数日前に予定を聞いた時は何もないと言っていたのに、と寂しく肩を落とす青木をよそに名前はどこかそわそわした様子のまま出掛けて行った。
気落ちしたまま家事を一通り終えたあと、青木はソファに寝転んでぼんやりと部屋を見る。自分の家でもあるのに名前のいない部屋はどこかよそよそしさを感じる。途端に寂しさを覚えてスマホを取り出してトークアプリの一番上に固定してある名前のものをタップして、何度か打っては消しを繰り返したあと送信ボタンを押す。
"今日は何食べたい?”
最近は忙しくて何もできてなかったから、名前のリクエストとあと何品か作ってあげよう。おかずが何品もあるって贅沢になっちゃったなあ。昔を思い出して少し後ろめたさを覚えたが、手料理を美味しいと食べる名前の姿を思い出して、幸せだからいいかと笑みが溢れる。あれでもないこれでもないと名前の好きな料理を浮かべては、買い出しにも行かなきゃいけないなあと浮かれている青木と裏腹に、その日名前が帰ってくることはなかった。
その日から少しずつ名前と距離ができていることに気づきたくなくても気づいてしまった。デートどころか一緒にご飯を食べることも、会話も少なくなっていることも、それでも青木は気付かないふりをする。
名前の顔色を伺って、鬱陶しがられない距離で、そっと隣に居座るのだ。本当はわかっている、頭では理解している。でも今更離れるなんて青木にはできっこない。
元々、僕が好きになって、身勝手な告白をして、それを名前くんが受け入れてくれて、夢みたいな日々が、ずっとなんて、永遠になんて、続くわけないってわかってたのに、近くにいてくれる安心感で自惚れてしまった……ダメだなあ、僕、ごめんね、
そうして迎えた何年目かの記念日、ささやかな飾り付けをして、名前の好きな料理を作って、あとはケーキを受け取りに行くだけ。
いつものケーキ屋で買う小さなホールケーキ。青木にとっては毎年幸せになれる味だけれど、名前にとってはいつから甘ったるいくどい味になったのだろうか。ケーキ屋からの帰り道、綺麗な女に腕を絡まれて歩く名前を見かけてそっと目を閉じた。
家に帰ってケーキを取り出してまだ温かい料理が並ぶ机の真ん中に飾る。料理が冷めて、ケーキがひび割れる頃、青木の幸せは静かに終わるのだ。
二人で住むには手狭で、一人だとこんなにも広くてさむい。
鼻を啜れば名前の温かな優しい残り香がして、二人の、青木の幸せが詰まった部屋が滲んでいく。
初めて恋をした人が名前だった。人生初めてのキスは苦いコーヒーの味だった。捧げた初めては痛かったけどとにかく嬉しかった。二人でバイトをしてかき集めたお金で同棲を始めた頃は、決して裕福ではなかったけれど温かくてこれ以上ないほど幸せだった。
でも、もっと、もっとたくさん名前と色んな所に出かけて、色んなことをしたかった。だから青木は夢を追いかけた。
その結果がコレで、欲張りすぎたのがいけなかったのだと今更気づく。
名前を呼んでくれるだけで幸せだったのに、
「真…っ!」
激しく扉が開く音と共に、大好きな人の声が聞こえてきて青木は顔をあげる。一瞬、鮮明になった視界の先に、ひどく焦った顔をした名前の姿があった。それもすぐに滲んで、近づいてくる気配に青木は笑顔を浮かべる。
うれしいなあ、かえってくるとは思ってなかったから、
きょうね、名前のすきなもの、たくさんつくったんだ、
みて、ケーキも、ちょっと溶けちゃったけど、
おいしいかなあ、おいしいといいなあ……
ごめん…
、ごめんなさ、い
ぼく、なんか、が
すきになって、
さいごに、キスして、
なんて、ごめんね、
青木真とすれ違う話