一通り俺の部屋を見渡した後のおっさんの顔には困惑の色が浮かんでいる。俺も同じような顔してるだろうけどな。
まぁ百万歩譲って部屋を間違えたってことで警察には連絡しないでやろう。俺優しいからね。いや、別に警察待つ間が怖いってわけじゃないって。物事は穏便に運んだほうがいいんだよ。うん。
「とりあえず、警察は呼ばねえから。玄関はここでて左に曲がったらあるから」
扉を指差してそう言えば、おっさんはしぶしぶといった感じで部屋から出て行った。しばらくして玄関が開閉する音がしてほっと息をつく。
にしても、何だったんだ?よくわかんねえけど、まだ眠ぃし寝よっと。もう一度ベッドへダイブして目を瞑った。


ピンポーン。軽快な音が来客を知らせる。ごそごそとシーツに沈んでいたスマホを手に取り、眩しさに目を細めたまま時間を確認する。記憶があやふやだが寝た時からおよそ5時間経過していた。ふぁ、と大きなあくびをしてもう一度鳴ったインターホンに舌打ちをして玄関に向かった。
「はい」
ガチャリと玄関を開ければ、隣の部屋に住んでいるお姉さんが立っていた。
「あの、お疲れのことろすいません」
「あ、いえ、俺こそ汚い格好ですいません。で、どうしたんですか?」
「親戚の方がずっと部屋の前で待ってらしたので、携帯、忘れたみたいで」
「親戚?」
お姉さんがおずおずと後ろに視線をやるので、その視線を辿れば嫌という程見覚えのあるおっさんが立っていた。おっさんは俺と目があった途端、何とも言えない顔で目をそらした。しばらくの間おっさんを見て固まっている俺にお姉さんが眉を下げながら「あの、いらないお世話だったら、すいません」と謝った。
「いや、その、驚いただけで。ありがとうございました」
「いえ。じゃあ、私はこれで。あの、お仕事頑張ってください」
少しはにかんだ後、小さく礼をして自分の部屋に帰っていくお姉さんに言葉にならない声がでた。不意打ちはダメだ。
「なに鼻の下伸ばしてるんだよい」
「おっさんてめえフザケンナ。この尊さを噛み締めさせろや」
つーか、何で戻って来たんだ!っておい!勝手に上がんじゃねえ!土足じゃねえか!!!!おっさんはっ倒すぞ!!!!

二度あることは三度ある、三度目はいらない

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