彼女の涙はきっと悔しいくらい綺麗なのだ。些細な嫉妬を孕んだ吐息は熱なんて持たずにとけていく。まっさらな背景にささやかなパステル・カラーだけをのせた軟らかな世界にはひとつの染みもゆるされない。一生を冷たい暗がりに抱かれて眠る乙女なんていないのだ。艶のない髪が頬を擽ってもあたしははにかんだりしない。なにもかもを愉快そうに笑う彼女のようになれない。 「何がそんなに楽しいの」 「それが我にもわからないのです」 彼女は吐き捨てられた言葉もそっと優しく両手で掬った。ああ憎らしい。無知を装ってはにかんだその桜色の唇が、憎らしくて羨ましい。白い小鳥が羽ばたいて、彼女の細い指にとまった。あたしにそれは似合わない。 「貴女は特別ね。動物と仲良し」 「獣臭いだけだわ」 「そう?」 小首を傾げて笑う彼女の長い金色の睫毛から伝う涙はきっと美しい。あたしはそれを見たことがないけれど、全てが砂糖菓子で出来ているようなこの女の、そのしずくがしょっぱいなんてわけはないのだ。それがひどく羨ましくて、あたしはこの女が大嫌いなのである。 「あたしはあんたが嫌い」 「知ってるわ」 でもかなしい。そう言ってまたはにかんだ彼女の涙はきっと甘い。しかし素敵な笑顔ばかりで飾り立てられた彼女が泣くなんてことはきっとこの先もないだろう。そんな彼女が羨ましくてなんだか哀れで、あたしのしょっぱい涙がすこうしだけ彼女の眩しすぎる白を濁してしまえば良い気味だと思った。 悲しいのなら泣けばいいじゃない。あなたは泣けるんだから。 それでも泣けない真っ白なお前があたしはやっぱり大嫌いだった。 (バルバトス+アイエル) 天魔企画様に提出させていただきました。 アイエルちゃんとバルバトスちゃんが好きすぎて…愛らしすぎて…二人がキャッキャウフフしていたら良いのに!と悶々しながら。 マイナーですみません。有難うございました! |