＃私の愛しの王子さま 01

今日はつまらない。月に一度の迅くんの日曜休みだというのに、迅くんに会えなかったからだ。

「迅くーん…」

高校卒業後、５年ぶりの同窓会だと言っていた。学年で集まるとかなんとか、仲のいい学校だったんだなあ、と最初は呑気に思っていたけれど、だんだん寂しくなって来る。いつもなら今頃二人でベッドに寝っ転がってくだらない話をしてる時間なのになぁ、なんて、天井を見ながら彼の名前を呼んでも返事が返ってこない２３：５０。重いと思われないように、と「心配しちゃうから、終わったら連絡してね」となんとも思っていない風に入れてみたLIMEにも一向に既読がつかないから眠れない。

迅くんからの連絡を告げる音が一向に聞こえてこないスマホを意味もなく触り、なんとなく、友達たちとつながっているSNSを開いた。彼氏との旅行写真を投稿している子がいたり、最近は年上彼氏を捕まえた友人が結婚報告をしていたなあ。私は専ら見る専門だけど。

そんな時だった。

－－金城真護がタグ付けされました

そういえば、大学の時に待宮が無理矢理金城と荒北に登録させていたなあ、なんて思い出す。二人が使ってるところ、見たことないけど、あ、でも卒業式の時に４人で撮った写真を私が投稿した時は二人とも、いいねしてくれてたなあ。そんなことを思いながら、珍しくそのSNSに現れた友人の写真を見て手が止まった。

久しぶりの再会～！
２５歳になったら私のこと引き取ってって頼んでた田所、まさかの彼女持ちになってる大事件。
金城私の未来の旦那勝手に奪うなー！！！笑

そんな言葉とともに、楽しそうな写真。

ぴたりと迅くんの隣には可愛い女の子が座って笑っていて、なんなら顔をほんの少し横に倒して迅くんの肩に寄りかかってるような感じ。迅くんも楽しそうな笑顔を浮かべて女の子とくっついている。

「…………」

なんでもない、なんてわかってる。彼女持ちになってるって書いてあるし。迅くんは今、私の彼氏だし。

なのに、どうしたって収まらないこのモヤモヤを、私はどうすればいいのだろうか。

『迅くん、終わった？会いたいな』

心臓がキリキリ痛い。

大体２５歳になったら引き取ってって何？くっつきすぎじゃない？迅くんも近すぎない？ていうかこの女の子の左手、迅くんの腕持ってるよね？なんでそんなに楽しそうなの？私に連絡もしないで女の子と楽しんでるの？っていうかもう１２時過ぎるけどいつまでやってるわけ？こっちが心配してるってわかんないのかな？ていうか無神経すぎない？誰？この子、彼女持ちって知ってるならそんな馴れ馴れしく……

そこまで、小さな声でブツブツと言葉にして止めた。随分と性格の悪いことを言ってしまった、とは思うけど、ぶつけようのない怒りをどうすればいいのか、教えて欲しい。気にせずさっさと寝ようと思っているのに、指はその写真を拡大していて、まるで彼女と迅くんの２ショットのようだ。スマホの画面いっぱいに広がる２人の笑顔が辛い。迅くんの手は、どこにあるの？彼女が迅くんの二の腕をつかんでいて、迅くんの手は彼女が座ってる場所のすぐ後ろにあるの？

考えるのをやめろ、と体からSOSが発されるけど、やめられない。彼女の座る後ろに迅くんの手が置かれて、そんな彼の腕をこの女の子はつかんで肩に顔を乗せて、迅くんもほんのり彼女側によって写真を撮ったってこと？はあ？だいたい金城もその場にいるなら止めろよ！アホ！

と、悪くない金城を責めたところでもう一度心を落ち着かせる。寝よう、もう、見るのはやめよう。スマホの画面を真っ黒にして、枕元に裏返す。いや、もう、連絡も待ちたくないから電源を切ろう。というか今迅くんから連絡が来ても、私、可愛くないこと言っちゃいそうだし。

落とした電源をすぐに入れたくなる、裏返しにしてもダメなら枕の下へ、枕の下がダメならテーブルの上へ、テーブルの上がダメなら別の部屋…………スマホなんて消えてしまえばいいのに、といざ無くなったら困る大切なスマホを結局掛け布団の上へ投げつけて、電源を入れる。迅くんから、連絡が来ているかもしれない。

「…………………」

スマホをつけても、メッセージの受信は告げられない。電波が悪いのかな？とベランダに出たって受信されない、何か調子がおかしいのかもしれないと、ネット通信を機内モードにしてからもう一度解除しても、新しいメッセージは来なかった。

「……迅くんのばか」

結局スマホを握りしめて待ち続けても鳴らない。漸く私が夢の世界へ行くことができたのは夜中の２：３０。その日はなんだか嫌な夢を見た気がした。

＊＊＊

『悪い、昨日は飲みすぎて電車なくなっちまってカラオケにいた』

そう連絡が来たのは次の日の朝７：３４。

「……あの子と？」

小さな声で呟いてスマホをバッグにしまう。返事をする気も起きない。今日は月曜日。朝礼があるから早めに会社に行かなきゃと心をどうにか入れ替えて作り置きの食材をお弁当箱に詰める。そうそう、迅くんに会わない日曜日はやることがなくて作り置きおかず、作りすぎたからたっぷり詰め込んで行かなきゃ。無心でお弁当におかずをつめて、どうにかこうにか、家を出た。

『仕事、おわったか？』

朝、既読にしたまま、結局昼休みもトーク画面を眺めるだけで返事はできなかった。そんな私にもう一度迅くんからの連絡が来たのは、多分迅くんの仕事が終わったのであろう、１８：４０。

返したくない気分は昨日と変わらないけれど、このまま無視し続けてもしようがない。

『うん』

素っ気ないその２文字を打ち込んで送信ボタンにモヤモヤをぶつけた。

『朝、忙しかったのか？』
『うん、ごめん』
『どうした？』
『何が？』
『機嫌悪いのか？』
『別に』
『俺のせいか？』
『知らない』

可愛くない。というか、最低だ。何も言わずに、突然不機嫌になるなんて。

迅くんと喧嘩をしたことがない私は、この自分の中で勝手に湧き上がって来た黒い塊を彼にぶつけたら嫌われてしまうのではないか、そんなことを思って、どうやって消化すれば良いのかわからない。

『知らない』という私の冷たい返事に既読がついたあと、迅くんから連絡が来ることはなかった。

＊＊＊

水曜日、迅くんのお店の定休日。毎週特に約束もせず、彼が遊びに来てくれていた。でも、きっと今週は来ない。あれから連絡をお互いに取れていないのだ。

そんな寂しさを紛らわせるために、昼休み、同じく東京で働く大学時代の同期の二人にメッセージを送る。

『金城、荒北、飲みに行こ』
『珍しいじゃねーか、リョーカイ』
『今日は直帰だから早めに行けると思う』

よし。今日は飲もう。飲んで、忘れて、明日また考えよう。そんなことを考えていたら、金城から個人メッセージ。

『田所と何かあったか？』

彼は昔から、こういうところ、本当に鋭い。

『大丈夫』

じゃないけど。

彼に話したところで、結局私の醜い嫉妬が解決するわけではない。連絡を取らない期間が長引けば長引くほど気まずさは増す一方で、私はスマホの待ち受けにしている迅くんとの２ショットを見てため息をついた。

＊＊＊

「金城近くにいたなら止めろ！ばかやろー！！！」
「名前チャン、飲みすぎィ、水にしようねェ」
「うるさい！バカ北！もうやだ！」
「苗字、確かに彼女は田所と仲良かったが、そんな心配するような関係では」
「仲良かったとか本当いらない情報どうもありがとう」
「金城ォ、余計なこと言うな、面倒くせェ」

結局、私は酒に飲まれて、二人に愚痴をぶちまけて、何時間経っただろうか。

「じんくんの、ばか…」
「名前チャン、寝るなヨ、風邪引くからァ」

「ン、羽織っとけ」と少し雑に私の肩にかけられた荒北のジャケットの香りが、甘くて優しい迅くんとは違う、鋭い香りで落ち着かないな、なんて失礼なことを思いながら、机に突っ伏して瞼を閉じた。

→02

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