真夏日より
「寒咲さん、やっぱすげぇな」
1年生部員たちがヒソヒソと会話をしている。おい、そこの1年聞こえてるぞ、少しはここの3年女子のことも褒めろと思っていると隣から古賀が苦笑いで声をかけてくる。
「大丈夫だ、名も悪くはない」
「あんまり慰めになってない」
「悪いな、嘘つけないんだ」
今年は新入生の人数が多くて、合宿終わりにインターハイに向けて親睦を深めたらどうかと手嶋に提案したところ、海辺でバーベキューという今時のイベントを計画してくれた。
幹ちゃんがすごくて、古賀がいうには私は悪くない、と評されるのはスタイルの話で、まあ幹ちゃんと一緒に水着を買いに行った時から薄々気がついてはいたけれど、と前を開けたままのパーカーから覗く自分の無くはないけどそんなに無い胸を見てため息をついた。
「名、大丈夫、俺はそれくらいの方が好きだぜ」
褒めるのが上手なキャプテン手嶋が私のフォローをしにくる。
「手嶋も古賀も、あんまりフォローされるの、それはそれで複雑なんですけど」
「大丈夫だ、女は胸だけじゃない、脚が好きな男もいれば尻が好きな男もいる」
「……セクハラ発言に認定します」
慰めてやったのに、と笑う古賀と、名は厳しいなぁなんて話す手嶋と、古賀の女子にする話でもないような発言を聞いて大きく頷いた青八木を尻目にバーベキューの準備を進める。3年は肉係、2年は野菜係、1年が火起こし係だ。
***
「準備できたかー?始めるぞー」
手嶋の掛け声で始まったバーベキュー。
みんなが楽しそうに思い思いの話をしているのを眺めている。
「インハイ、楽しみだなぁ。今年はサポート、一緒に頑張ろうね」
隣に腰掛けている古賀にそう話しかけると彼は笑って頷いた。合宿の手嶋との戦いをこの目で見た身として、私が彼にかけられる言葉は慰めの言葉では無く、一緒に戦おうという言葉だと思っていたから、彼の反応を見てホッとした。
それから、合宿の話や夏休みの宿題の話をしていると、頭上から声が降ってくる。
「名さん」
「鳴子、どしたの?」
「ちょっとこっち来てください」
古賀に、ちょっと外すねと声をかけて彼についていく。
私の腕を引っ張って遠くにある水道まで彼は進んだ。
「ちょっと、章吉」
無言でズンズンと進んでいくから、思わず、普段の呼び方になってしまう。
振り向いた彼は先程バーベキューの場で声をかけて来た時とは違う目をしていてドキッとした。
今年の春、彼と付き合い出したことは手嶋や青八木、古賀にも、もちろん後輩たちや幹ちゃん、誰にも話していない。秘密のお付き合いをしているのだ。
「名さん、なんでパーカー閉めてないん」
「パーカー?」
「前のチャック」
「ああ…」
「あと下もショートパンツ履いて」
確かに、今の私の格好はビキニに上からパーカーを羽織っただけの状態だ。
「大丈夫、誰も見てな」
「見てるわ」
「章吉しか見て」
「他の男も見てんの、ほんまにわからへんの?」
ジリジリ、と後ろにある建物の壁に追いやられる。
「しかも何や、名も悪くないって、ちゃっかり古賀さんも見てるやん」
「いや、あれはね、私を慰め」
「俺はそれくらいの方が好きってパーマ先輩もバッチリ見てるやんか」
「だから…」
「名さんの胸見んのはワイだけでええ、何ならそのパーカーの上からワイのジャージも羽織らせたいくらいや」
「それはちょっと暑…」
「……いいこと思いついた」
トン、と私の顔の横から手を伸ばして後ろの壁につける。自動的に私の背中は壁にくっついて、ニヤリと笑う彼との距離も近くなる。
「ちょっと静かにしとってや」
そう言って彼は私の胸元に唇を近づけると強く吸い付いた。
「ちょ、っと、章吉!」
「静かにしてって言ったやろ」
「ここ外っ」
「うるさい」
もう一度私の胸元に吸い付くと、そこがピリッと痛む。
「しょ、」
「ん、これで前閉めなあかんくなったなぁ?」
楽しそうに笑う彼の顔を見てから胸元を確認すると、そこには真っ赤な痕。
「ほら、早く痕隠さんとな」
そう言って私のパーカーのチャックを上げる。
「海も入らんでええ」
「…暑いのに」
「んな、もっと暑くなることするか?」
私の胸に手を置いて笑う。
「ばか」
その言葉を聞いて彼は私の髪を撫でた。
「ワイは名さんの胸が一番好きやし、脚も尻も全部丸ごと好きや」
「ん…」
「せやから誰にも見せたくない、ワイだけが独り占めしたい」
「も、わかったから、恥ずかしい」
「帰ったらたっぷり見せてや」
顔を赤くした私に満足したのか、ニカッと笑って私の腕を引く。
「あー、やっぱりみんなに付き合ってるって言いたいわ、先輩たち絶対名さんの身体見とるもん」
「見てないってば」
「いいや、古賀さんは絶対名さんの脚が好きなんや」
「はあ?」
「手嶋さんはケツ」
「ケツとか言わない」
「ああもう、戻ったらズボンも履いてや」
「はいはい」
「チャック下げて俺の痕見せてもいいけど」
「やだ」
「ズボン履かんかったら、次は太腿に痕つけるわ」
「章吉、楽しくなってるでしょ」
バレた?と笑う彼の肩は既に少し日に焼けたのか赤くなっていて。
「じゃあ帰ったら私も痕つけよっかな」
と話せば、彼の耳が少し赤くなった。
「ふふ、あかーい」
「うっさい」
「照れた?」
「照れとらんわ」
「かーわいい」
「まだ痕つけられたいんか」
唇を尖らせた彼の頬にこっそりキスをして、バーベキューを楽しむみんなの元へ戻った。
***
「彼氏のヤキモチは終わったか?」
戻るなり古賀に話しかけられて言葉を失う。
「これでも俺は結構観察力がある方なんだ。鳴子、俺のこと睨みすぎだしな。粗方、パーカーを閉めろとでも言われたんだろ、ついでにショートパンツも履け、か?」
そう笑いながら私の脚を指差す同い年の彼に思わず苦笑いをした。