バーベキューの醍醐味は
「ちょっと!新開つまみ食い禁止!」
「いいだろ?減るもんじゃないし」
「減るわ!」
「名さぁ〜ん、コーラ無くなっちゃったぁ」
「真波暑い!ひっつかないで、クーラーボックスにあるよ」
「姓、玉ねぎを丸く切るとはどういうことだ?」
「え?福ちゃん!それ小さく切りすぎ!輪切り!輪切り!」
「名!今日の俺を見て何か気がつくことはないか」
「ない」
「カチューシャを新調した!」
「うん、すごくどうでもいい」
「ダーーー!!お前ら!ウッセ!あと名、パーカーの前閉めろ!」
バーベキューの火を起こしながら思わず叫んでしまった俺に辺りはシーンと静まり返る。
「ヒュウ」
「大丈夫だ荒北、名の胸など興味ない」
「それはそれで私複雑な気持ちなんですけど」
「え〜、荒北さんだけ名さん独り占めなんてずるいですよ〜」
「ンの不思議チャン、いい加減離れろ!」
名の首に腕を巻きつける真波を引き剥がして名の腕を引っ張る。
「早く前閉めろ」
「どうせ後で川入るのに」
「お前は入んなくていいんだよ」
「えー、つまんない」
同じチャリ部の部員で来たバーベキュー。
マネージャーであり彼女の名は前々から楽しみだと気合を入れて水着選びをしていた。
俺の反対を押し切って彼女が選んだ水着はパステルブルーのビキニで、贔屓目で見ても小さくはない彼女の胸を強調していて、思わず今日着替えを終えた彼女に自分の着ていたパーカーを投げつけた。
「名さぁーん!コーラないよー」
「はいはい」
どうにか剥がした真波がクーラーボックスを開けながらまた名を呼ぶ。
「ンァ?真波は水でも飲んでろ!」
「もー…靖友。真波ちょっと待っててね」
暑さと彼女の無防備さにイライラしている俺に彼女は「ちょっとこっち来て」と言って腕を引っ張る。他の奴らからは見えない物陰へ進むとニヤニヤと笑い出した。
「靖友のヤキモチやき〜」
周りに誰もいないことを確認してから、彼女は俺の頬を抓り笑う。
「妬いてねェ」
「えー?どう見ても妬いてるんですけどぉ」
「ッセ、アッチーからイライラしてンのォ!」
「ふふふ、そんなとこも好きだよ、靖友」
そう言いながら彼女は俺の肩に手を掛けて唇を重ねた。
「よかった、うちの部活他に女の子いなくて」
いたら私もヤキモチやいちゃうから、なんて言いながら、俺に軽く抱きついて首筋にキスを落とすと、すぐに離れる。
「バァカ」
彼女の顔にかかった前髪を掬い、パーカーのチャックを一番上まで上げれば、「ダサい」と言って、彼女の手がそれを少し下に下げる。
「他のヤツに見せんな」
もう一度チャックを一番上まで上げると、「しょうがないなぁ」とニコニコしながら俺の唇にもう一度キスをした。
「靖友、機嫌直った?」
「ッセ!」
奴らの元へ戻るとニヤケ顔をした新開が「名は靖友の機嫌を直す天才だな」と彼女に話しかける。
「でしょ〜」なんて言いながら、したり顔をする名の頭をぐしゃぐしゃと撫でると彼女は「もう、ポニーテール崩れるでしょ」と笑いながら俺の髪をぐしゃっと撫で返してクーラーボックスへ向かい、手のかかる後輩に頼まれたコーラを出していた。