『ま、雅治ぅ…。』



「大丈夫じゃって。落ちやせんぜよ。」






何故二人がこんな会話をしているかを知るには少し時間を遡る必要がある。



それは今日のお昼前のこと。
親が出払った仁王宅では、十歳になったばかりの一組の双子が留守番をしていた。
妹の雅輝が昼食を取るために母親から預かっていた千円札二枚を握りしめて、兄である雅治に話し掛ける。






『雅治、お金預かっちゅうけどお昼何食べるがじゃ?』



「んー…なんでもいいぜよ。それより雅輝。」



『?』



「……ちょっとお袋達を驚かせてみんか?」



『プリ?』






そう言って二人で自転車で外へ漕ぎ出す。
雅治達が向かうのは本州との間を分断する瀬戸の海。



本州へと繋がる大きな橋へと辿り着き、暫く渡った後なんと雅治は自転車を欄干の上へと乗せてそのまま漕ぎ出そうとする。
そんな兄を慌てて止める雅輝。






『ちょ、危ないぜよ!落ちたらどないするんじゃ!』


「最悪橋側へ倒れれば海には落ちんぜよ。雅輝も上がりんしゃい。」



『!?』



「プリッ。」






結局雅輝も欄干の上を漕ぐ事になり、雅治の後ろを恐々と着いて漕ぐ。
そして冒頭へと戻る訳である。
元々極度の怖がりである雅輝にはとてつもない恐怖が襲い掛かっている。



そのまま橋を渡り切り(流石に怒られるので最後辺り欄干から降りたが)本州の土を踏む。



長い橋を渡り切った二人を包むのは謎の達成感。



その後辺りのファーストフード店で昼食を取ったが、夕方には夕食を求めて四国へと元来た道を引き返すのであった。






【小さな旅物語。】






(行けるもんじゃのう)(ま、雅治…。)(帰りは普通に橋を渡るぜよ)(!うん!)



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