忍足ユーシは話してみると意外と面白い少年だということが分かった。
顔に似合わず純愛モノが好きらしく、昨日周助に貸した恋愛小説について話すと異常な勢いで食いついてきた(危うく吹き出す所だった)。



好みに共通点が多かったからか学校に着く迄にはユーシ、就也、とお互いに呼び合う程仲良くなった。



あ、ユーシに女の子だってちゃんと教えたよ。
「男に綺麗って言うのも失礼やな。」って言ったから『俺女だよ?』って教えたら物凄くびっくりして固まった後ホッとした顔をしていた(多分「自分は間違ってなかった…!」とか思ってるんだろうな)。
まぁ聞かれなかったら言わないままだったけどね。
面倒だし。



前もって下見をしておいたおかげで何とか氷帝学園に辿り着きはしたものの、やはり入学式は終わってしまっていた。
取り敢えず職員室に行って二人で先生に事情を説明すると大変だったな、と頭を撫でられた。
遅刻については初日だし急いで来たので不問にしてくれた。



先生にクラスを聞いて(ユーシとは別のクラスだった。……残念だけど隣のクラスだから明日から遊びに行こう)する事の無くなった俺達は校内を探検することにした。
だって新入生がもう帰り始めてたし。
今更教室行っても誰もいないよきっと。



ふと遠目に人だかりが出来ているのが目に入り、タコ焼きについて語っているユーシの肩をちょいちょいと突く。






『……ユーシユーシ。』



「せやから……ん?どないかしたんか?」



『あの人だかり何だろう?気にならない?』






俺の指差した方へユーシも目を向ける。
新入生から在校生まで出たり入ったり違うところへ行ったり、引っ切り無しに人が動いている。






『……行ってみる?』



「……せやな。どうせ校内廻るんやったら何時かは行くし。」






二人で人だかりの方へ近付いてみることにした。



どうやら人だかりの先は食堂などの全学年が共通で使う部屋が集まった交友棟の様だ。
一番人の多い場所は後回しにして、少ない場所から人だかりの正体を探る。






「……何やコレ…。」



『……室内プール…いや温水プールかな?』






そこにあったのは大きな室内の温水プールだった。
……いやいや、いくら金持ちの多い学校だからってこれは流石にないだろう。



他の場所も見に行ってみると、あまりにも大規模な視聴覚室や最新鋭の機器が揃ったパソコンルームがあったりした。
しかし一番の極めつけはこれだろう。






『……もういいや。』



「諦めたらアカンで就也。気持ちは分かるけど。」






……これが食堂…?
ホテルか何かのレストランじゃないのかこれは。
白いテーブルクロスのかかったテーブルが幾つも置いてあり、その上には何十種類ものデザートや料理が並んでいる。
所々に薔薇の花弁が散らしてあり、まるで高級フレンチの様な雰囲気を醸し出していた。



突っ込む気も起きず脱力しているとユーシに肩を叩かれる。
そちらへ顔を向けるとユーシは近くで話している少女達を指差した。






「これ全部跡部様が寄付して下さったんですって!」


「流石跡部様!快適な環境を提供ってこの事だったのね!」






『……どうやら俺達が来る前に入学式か何かであと…べ?って子が何かやったらしいね。』



「……金持ちの考えることは分からんわ。」






【なんて派手な】





(ユーシ、あとべ?って子入学式の挨拶で氷帝の王様宣言したんだって)(……ホンマ訳分からんわ)(世界は広いね)

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