『……本当に裕太転校しちゃうのかい?』


髪を結おうとした手を止めて顔を上げる。後ろで集めた髪がまたぱさりと肩に落ちる。


「ああ、こればっかりは止められても変えない。」


そう力強く言い切ったのは我が弟である不二裕太。同じ中学に入学したばかりである。


『そうかい……。やっぱり周助が原因?それとも……


俺?』


そう言った俺に裕太は少し慌てた様に言い直す。


「あ、いや確かに転校理由は兄貴達ってのもあるけど…別に兄貴達が嫌いって訳じゃ……。」

『ふふ、その台詞周助に聞かせたら喜びそうだね。』


余計に慌てふためく裕太に思わず笑みがこぼれる。本当に、こいつらは仲が良いのか悪いのか…。

ふふふ、と笑っているとコホン、と咳払いをするのが見えてまた耳を傾ける。


「それに、やっぱり俺自身のテニスを見て欲しいから。」


そう言って裕太は真っ直ぐ俺の目を見詰める。その目には一点の曇りもない。


『……俺は別に止めないよ。可愛い弟にはいつか追い付いて追い越して欲しいし。』


というかもうパワーでは負けてるんだけど、と付け足すと思わず裕太が噴き出した。


「まだまだ男に混じって試合してるくせに。」

『おや、それは心外だね。強い者なら男女は問わないよ?……たまたま女子テニス部全員に勝っちゃっただけで。』


二人でクスクス笑っていると出発の時間になったらしく裕太が荷物を担いだ。


『じゃあ元気でね。多分そろそろ周助が帰って来るから一言言って行くんだよ。』

「姉貴も、まだ氷帝の奴らにボロ負けすんなよ。」


そう言って裕太は笑顔で部屋を出て行った。



不二 就也 13歳。
弟の旅立ちが少し寂しく感じました。



【俺は応援してます。】



(あ、周助お帰りー。)
(ただいま。これでとうとう全員別の学校だね。)
(……寂しい?)
(うん。でも楽しみ。)

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