シューズ等は脱がされて裸足の状態。相手の手の中にある自分の右足は少しだけ痛むがたいしたことはない。 「大袈裟だよ…」 「ひねったことには変わりねぇだろ」 動かすな、と静かにいわれてしまえば、黙って見ることしかできなかった。 いつもの放課後の部活中。試合形式での練習の時、右足首を軽くひねった。軽い痛みが走るも顔にはあまり出さないよう計らいトスを上げる。が、それは拾われることなく床に落ちて、同時に手首を捕まれ気付けば保健室というわけだ。 「俺が気づかないって思ってたわけ」 慣れた手つきで湿布を貼られて、ゆっくりと足から手を離される。台から足を下ろして下を向いていると呆れを感じさせる声が響く。 「少し、は」 小声で返した返答はぶっちゃけて言えば大嘘だ。気付かれないはずがないことぐらいわかっていた。自意識過剰では到底ないほどに相手は自分に過保護なのだ。 ちら、と顔を上げて様子を伺った。髪の隙間から見えたのは、湿布のゴミを捨てる行動。そして振り返られ視線がぶつかる。 「研磨が痛くなくてもさあ」 冷たいように感じる口調。あ、と思うも出来ることはない。どうしようと考える前に、視界が少し暗くなる。 「俺が痛い、馬鹿みたいに」 抱き締められたと理解するのには思った以上に時間がかかった。少しだけ伝わる相手の震え。ぐ、っと中心が締め付けられる疑似の感覚。 「いたい」 込められる力は優しすぎて、受け止めるには器が足りない。怪我の事だけを言われているのではないのだろう。試合に出られなくなったら、実は酷い状態だったら、そんな不安が相手を痛める。 「ご、めん」 大人しく身体を預けて相手の思うままに。ぽろりとこぼれた謝罪の言葉に、少し力が強くなるような。 「ごめん、クロ」 片手を大きな背中に回して、小さく宥めるように手を動かす。あやしているのは歳上のその人。それでもって、我がバレー部の主将。 「…戻れるか?」 小さな深呼吸をした相手は自分からゆっくりと離れて、顔を覗き込みながらいってきた。こくり、と頷けば頭を撫でられる。まるで、動物を撫でるかのように。 「今日は見学な」 「わかってる」 でも多分、飼われているのはきっと ∵二匹の猫 |