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ぱらぱらと鳴り響く音は雨が屋根にぶつかっているからだ。バス停の僅かな区間だけ、プラスチック製のそれによって地面が濡れることなく保たれている。クラスの女の子が雨の日は髪がまとまらくて嫌だ、とかいってたけど、たいして変わっていなかったと思う。そんなことより傘がなければ身動きがとれなくなってしまうことのほうがよっぽど嫌だ。

「…、寒」

前触れもなく急に振りだしてきた雨によって少し濡れてしまった身体は冷えて、スマートフォンをいじっていた指先は凍えてうまく操作できない。

「あ、」

そんなときに限って不幸は続くものだ。どんよりと曇った天気はそう簡単に回復するものじゃないことぐらいわかるし、時間を潰そうとアプリを開くと表示された充電切れのマーク。ついてない一日はとことんついていないらしい。愚痴ろうと思っても、隣にその人はいなかった。

始まりは、といえば思い出すのも億劫な朝の喧嘩だ。幼馴染みの彼と珍しくやらかした口喧嘩は理由なんて覚えていない。怒鳴られたわけでもないし、勿論殴られたとかそんなわけもない。ただ、呆れたようにつかれた溜め息が何故か酷く胸を貫いた。

「なんか、もうどうでもいい」

ぺたん、としゃがみこむとエナメルが地面に勢いよくぶつかる。耳に入ってくる雨の音も、跳ね返りで濡れるズボンもどうだってよくなってきた。心のモヤモヤはどうしようもなかったりすることぐらい熟知している。顔を伏せ、濡れてもいいから帰ってしまおうか、と頭が回らなくなってきた時、頭上で聞き慣れた声が響いた。

「研磨」

「…、え」

大きめのビニール傘を片手に空いている手で二の腕を掴まれる。と、自分では力も入れていないのに勝手に持ち上がる身体。電子機器を落としそうになり慌ててバランスをとった。

「帰るぞ」

「ちょ、と、クロ」

二の腕を掴んでいた手は下へ移動してこちらの掌に絡められる。冷えきって失っていた感覚は相手の体温と混ざりあい徐々に復活していった。

「ね、ねぇ、クロってば!」

「なに」

なにって…、実際何と聞かれれば何を言えばいいかわからなかった。喧嘩していたんじゃないのか、どうやってここがわかったのか、外なのに手を繋いでいていいのか、次々と浮上する思いは狭い出口からはどれも出てこない。黙っている間にも半ば引きずられるように前へと進んでいく。
そこで気付いたことがあった。
傘をさしていたはずなのに、少し濡れている肩や髪の毛。そして若干乱れている呼吸。

「さ、がした?」

「それはもう」

まさに即答、瞬間絡めた部分に力が込められる。

「疲れたから充電」

走ったから濡れた、とぼやきながら手のひらに力を込める相手から怒っている様子は伺えない。

「迷子になっても見つけるけどさ」

ぱらぱらと響く雨の音は今度は随分近くで感じる。

「研磨から逃げるのは勘弁な」

「ご、めん」

冗談のような口調だが冗談には聞こえない。こたえているのは自分だけではなかったようで。

「早く、帰ろ」

「当たり前」

濡れた身体を暖めたいと思った。





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