背伸びをするのはすきじゃない。肉体的にも精神的にも、無理なんてしたくない。ことなかれ主義、でも、気を使うなんて考えられない。はっきりいえば贅沢、我儘。世間様から叱られて当然。なのに、それが通用してしまう。 「…クロってさぁ」 「ん?」 背伸びをしないこちらの代わりに相手がかがんでくれるのだ。手を引いて、時に抱き抱えるように。自分でもわかる。甘やかされていると。 「子育て絶対向いてないよ」 「初めて言われた。寧ろ向いてると思ってたけど」 はっ、と笑った相手は手にしていた雑誌をその場に置いて、身体を此方へ向けてきた。どうやら予想以上に興味を示したらしい。 「で、なんで?」 「だって、甘やかしすぎてるから」 会話をしながらゆっくり近づく。と、何も言っていないのに抱えられては定位置の膝の上。作られた流れは恐らく無意識なのだろう。腕を回されたのではぁ、と溜め息。手探りで相手の頭を撫でる。 「…ほら」 「え、」 「こうゆうところ」 まだまだいっぱいあるけど、と漏らせば、背後で何やら芳しくない気配。首を回して後 ろを見ると、案の定笑いを堪える姿が映る。 「…何笑ってんの」 「わり、いや、だって」 自分のことを言われてそこまで笑う歳上を目撃するとは、なんとも今日は運が悪い。やはり口にするべきではなかったようだ。正面に向きなおし、後ろに体重をかけてやろうかと考えたところでうなじに小さくリップ音が響く。 「研磨の方がさあ」 思わずうなじに手を当てると、すぐに手首を捕まれる。 「甘やかしてると思う」 「誰を」 「俺」 そのまま口元に運ばれたようで、緩い力で甘噛みされれば流石に気付かない事はない。 「何処が」 「全部」 こん、と相手の頭を叩き、手首を離させ様子を見れば、うっすらとついた歯形が目に留まる。 「跡、ついてる」 「俺のっていう」 満足げに答えるあちらは楽しそうに答える。マーキング、とするならば。 「…俺もつける」 「ん?」 「跡つける」 一方的というのはズルいだろう。 「いいけど」 「いいけど?」 とん、と肩を叩かれ振り向くと、顔を綻ばせる相手が漏らす。 「腹、すかねぇ?」 「…俺もすいた」 食べられやすいように、首に腕でも回してみようか。 ∴捕食者二名 |