高2と高3 大分寒くなってきたな、と冷たい風に当てられ意識する。雪こそ降っていないものの、来週あたりからはどうだろうか。そんなことを思いながら玄関の前に立ち、インターホンを一押し。去年はここまで寒くはなかったはずだなどと考えていたが、近づいてくる足音の後に扉が開かれる頃には、もうどうでもよくなっていた。 「おめでとうございまーす」 「なんか年々雑になってきてるぞ」 「気のせいですよ、お邪魔します」 呆れを思わせるような台詞とは逆に、クスリと笑顔を見せる相手にコンビニのケーキを渡して室内へと上がらせてもらった。 何度も祝ってきた誕生日も休日というのは初めてで、今年は午前から自宅へと招かれたわけだ。といっても朝にあまり強くない、寧ろ弱い相手に配慮すれば殆ど正午に近い時間帯になってしまったのだが。 「今日いつ起きました?」 「さっき…ってわけじゃないけど、まあそのぐらい」 相手の返答に適当に相槌をうつものの、どうせ起きてから時間はたっていないのだろう。何より、腰掛けたベッドが暖かいのがその証拠。近くの床に座った相手の背中にジト目を向けて拗ねた口調で言ってみた。 「そのうち平日に起きれなくなっても知りませんから」 「、?」 振り返る気配を感じるも、つんっと横を向いて拗ねた体を続行する。別に慣れっこなので今更拗ねるも何もないが、まぁ自分がやってて面白いのと今日ぐらい起きろと思う心が無いわけではないことからの悪戯心だったりするわけで。 「ベッド、暖かいままですよ」 「あー……。バレたか」 ちら、っと相手を見てベッドを軽く叩きながら言うと、たっぷり時間をかけてから苦笑いを浮かべられ再びそっぽを向いた。 「来年から一人暮らしのくせにそんなんで大丈夫ですか?」 「何、心配してくれてんの」 まさか誕生日に説教紛いなことをするつもりがあった訳ではないが、自分の性格上口をついてしまったものは仕方がない。というか、それにのってくる相手も相手だ。 「勝手にいっててくださーい」 生憎そのテンションに付き合う気力はなかったため、あしらう感覚でそのまま相手に背を向けてベッドに横たわると、思った以上にボフンッと音がたち余計に力が抜けていった。 「平気だよ」 後方で聞こえた声は意図が解らずスルーしようと思ったが、続く台詞に思わず反応してしまう。 「倉間に起こしてもらうから平気」 「はぁ?」 振り向こうとすると、立ち上がった相手と思いっきり目があった。少し驚きフリーズしたところにつけこまれては成す術はない。ベッドに入り込んできた相手の腕の中に捕らえられ、隙間の無い密着に抵抗など出来るわけがない。 「…またあんたのペースかよ」 「そうでもないと思うけど」 細やかな抵抗として吐いた言葉を笑顔で否定する余裕がまた腹立たしいのだ。 「男の憧れじゃん」 「何が」 「起きてくださーい、って起こされるの」 ふてていると、どうやら話が戻されたらしい。 「相手が俺って所が虚しいですね」 ここだと言わんばかりに哀れがるように返答をすると、顔にかかる髪をかきあげられて視界が一気に広がり真顔の相手が一言ぽつりと。 「お前以外の方が虚しいよ」 「な、」 「倉間じゃないと嫌なんですが」 なあ、俺だけ?と間近で言われて、自ら墓穴を掘ったことに今更気が付いた。逃げるように視線を落とすのは拒否からくるものではなく、寧ろ逆であるのに伴わない行動は毎度ながら呆れたものだ。 「ちかい」 「わざと」 かきあげられた髪ごと柔らかく撫で、ぐいっと顔を寄せてくる動きは優しいのに、こちらにとっては全く易しくない。 落とす視線を掬い上げるように下から覗きこんでこられては、身心的にも逃げられない。 「せっこい」 「俺だけ言うのやだし」 「勝手にいったのはあんただ」 「言わせたのはお前」 レベルの低い言い争いで空気を変えようにも、そんな小細工がバレないわけもなく。鼻先に軽く唇を当てられてしまえば高揚は加速し、口を開くことを後押しした。 「…っお、れも」 「もっと」 「俺も、いやだ」 「ん、よかった」 乱雑ながらも言い終えると、ゆっくり顔を離していくあちらは満足気で、言ってやろうと思った文句は喉の奥に引っ込み消えていく。 結局、相手の胸に閉じ込められる体勢が、正直一番好きなのかもしれない。 一度身体を伸ばして再び包まれたのは胸の位置。髪に顔を埋められくすぐったいが、どことなく心地好い。 「顔熱い」 「うん、すっげぇ赤い。俺が赤くした」 可愛い、嬉しい、などとほざく相手は回す腕に力を込め、その表情でこちらを見つめてくるのだから猛毒だ。べし、と顔を手で払うものの、何故かそれに機嫌を良くされてしまえば愚図るしかない。 「くーらま」 なんとかこの空気から抜け出したいとそれだけ考えていると、名前を呼ばれて相手を見上げる。 「今日で俺が何歳になるか知ってる?」 「…1、8」 「そう、18。だからさっきのさぁ」 耳元で小さく聞こえた。 「プロポー、」 べしんっ!と勢いの良い音が部屋に響き、代わりに相手の言葉が消える。 息を荒くするこちらと肩で笑うあちらのテンションの差は果てしない。 「台詞止められといて笑うな!」 「いや、あまりにも予想通りで…」 荒ぶるのは息だけではなく、心拍、感情、その他もろもろ。この上無い、本当にこの上無い自虐をかました相手は、未だに顔を隠して笑っているのがとにかく気に食わない。 「正面から平手打ち、って」 「うぜぇ」 「顔に傷ついたら?」 「どうせ俺が貰うんで構わないかと」 「はは、男前」 へらへらと笑う相手は冗談なのか違うのか。こちらが止めなければ最後まで口にしていたのか。断ったとして手離されるのか。受け止めれば手離さなくてもいいのか。 「…もう知らねー」 「ん?」 だって俺も来年は18なわけで。 「南沢さん」 貰っちゃう宣言もしたわけで。 「とりあえず誕生日なんで俺あげます」 かぶりつく口元は緩んでいるのだから、お互い幸せってことにしてしまおう。 ∴毒林檎だと決めつけないで |